民主党の定数是正提案は憲法違反のおそれ~定数問題を解散先送りの道具にするな
2012-11-6
10月29日、臨時国会が開幕。政局の焦点は、野田首相が、3ヶ月前に「近いうち」と表明した解散総選挙はいつか、国民生活に直結する重要法案等(特例公債法案、社会保障国民会議)の取り扱いはどうなるかという点に移った。
ただ、現在の衆議院議員の定数は、いわゆる1票の格差が2倍を超え、既に最高裁から「違憲状態」と指摘されている。
そして、もしも国会が、違憲状態解消のための何の手立てもせずに、解散総選挙ということになったら、「選挙無効」という最高裁判決が出ることも十分に考えられ、それこそ大きな政治空白を作りかねない。
その意味で、解散総選挙前に、衆議院議員定数の是正措置をとっておくことが重要だ。(民主党の主張)
この、衆議院小選挙区の一票の格差については、いわゆる「0増5減」(山梨、福井、徳島、高知、佐賀の各県の定数を1ずつ減)の手当を行えば、1票の格差を、2倍以内に抑えることが可能だ。
しかし、与党民主党は、これに加えて、衆議院議員の比例区の定数削減を同時に実施すべきと主張、衆議院の比例定数を40削減した上、中小政党に有利な「民主党式比例代表連用制」を一部採用する法案を提出、先の通常国会で、衆議院では強行採決したものの、野党が多数を占める参議院で廃案となった。
私も、議員定数の削減は、大変重要な課題だと思う。
ただ、「民主党式比例代表連用制」の提案が、妥当かどうかは、しっかりと議論すべきだ。
(比例代表の仕組み)
衆院議員の定数は、現在、小選挙区選出議員が300、比例区選出議員が180の、計480となっている。
現行の「小選挙区比例代表並立制」は、有権者が、小選挙区では候補者名、比例区では政党名を書き、小選挙区では最も多くの得票を得た候補者が当選、比例区では、得票数の多い政党順に、ドント式という方法により、議席が配分される。
これに対し、諸外国では、「小選挙区比例代表併用制」、「小選挙区比例代表連用制」などと言われる制度が採用されている。
これらの制度は、有権者が、小選挙区で候補者名、比例区で政党名を投票するが、雑ぱくに言えば、議席配分は比例区での得票が多い政党順に決定され、誰が議員になるかということを、小選挙区の得票で決めていくというものだ。
去る6月18日、民主党は、衆議院議員の定数を小選挙区で5(0増5減)、比例区で40削減し、比例区定数140のうち、35について、中小政党に有利な「民主党式比例代表連用制」を導入するという法案を国会に提出したわけだが、これは、諸外国で行われている「併用性」、「連用制」とは、似て非なるものだ。
(民主党提案の問題点)
「民主党式比例代表連用制」は、諸外国の「連用制」、「併用制」と言われる選挙制度が、得票数の多かった政党順に、一定の方式に基づき議席が配分されるのに対し、小選挙区で議席を得ることができなかった中小政党を優先し、その得票順に議席配分を決めるというものだ。
ちなみに、前回総選挙での比例区得票をもとに、「民主党式比例代表連用制」が適用される35議席の配分を見ると、民主0、自民0、公明17、共産10、社民3、みんな4、幸福実現党1ということになる。
このように、有権者が、小選挙区での当選者がいる政党に対し比例代表の投票を行った場合、その1票の価値は、限りなくゼロに近くなるわけで、その限りにおいて、中小政党に投票した有権者の1票の価値と比べれば、その格差は2倍どころの騒ぎではない。
このように、「民主党式比例代表連用制」は、憲法に定める「法の下の平等」に抵触する恐れが強い。
加えて、もしも大政党が、比例区での議席を獲得したければ、例えば自民党の場合、党を分党し、小選挙区しか候補者を出さない「小選挙区自民党(仮称)」と、比例区にしか候補者を出さない「比例区自民党(仮称)」の2つの党を結党し、それぞれが多数を得た場合、連立政権を組めば良いということにもなりかねない。
これでは何のための制度だかわからなくなってしまう。
結局、「民主党式比例代表連用制」は、諸外国で行われている「連用制」、「併用性」とは異なり、極めて問題の多い制度と断じざるを得ず、各党の合意を得ることは非常に困難と思う。
それでも民主党が、「民主党式比例代表連用制」に固執するとしたら、そもそも不可能な提案を掲げ続けることにより議員定数の違憲状態を継続させ、総選挙を行うことができない状況を長引かせるためと言われても仕方あるまい。
(急がれる違憲状態の解消)
国政に携わる者は、「憲法違反」という状況に、もっと危機意識を持ち、敏感でなければならないと思う。
すぐに各党の意見がまとまるということが難しいならば、やはり、「0増5減」を先行実施すべきだ。
その上で、衆議院議員の議員定数削減も、重要な課題だ。
これについては、削減の期限と削減の幅について、各党が合意文書を作っておくべきと思う。
その上で、最高裁からの指摘を待つのでなく、また、党利党略に拘泥するのでなく、選挙制度改革の議論を本格的にスタートさせるべきだ。
それが国政に携わる者の、最低限の責務ではないか。