田中法相の辞任と拉致被害者~丁寧さや配慮の欠片もない政権運営

2012-10-23

余りにナイーブな民主党外交について講演

10月24日、田中慶秋法務大臣が、就任わずか3週間で、外国人からの献金問題や暴力団との癒着問題を指摘され、辞任した。
まさに民主党政権の末期症状を象徴するような事件だ。
この田中大臣は、民主党政権で7人目となる北朝鮮当局による拉致問題の担当大臣だ。
このように猫の目で担当大臣が代わっていては、日本政府による拉致問題解決への本気度が疑われるのは当然で、それが田中大臣の辞任で8人目となる。
お気の毒なのは、拉致被害者やそのご家族の方々で、民主党政権の拙劣な外交で、拉致問題は一向に進展しない。
私も、何とか彼らのお役に立つ立場になれればと思う。
昨今、国益よりも自らの延命を考え、国難に真正面から向き合おうとしない民主党政権にあきれ、批判するのもバカらしくなってきたが、今回は、私が、「民主党では外交は進まない」と思った1つのエピソードに触れ、参考に供したい。6年前の2006年、私は、「北朝鮮当局による人権侵害問題対処法」を立案、我が国として、拉致問題解決への強い立場を示し、国民への啓発活動に本格的に乗り出す運動を推進していた。
この、北朝鮮による人権侵害問題には、拉致問題は当然のこと、脱北者に対する弾圧問題等も入る。私は、拉致問題といういささか特殊な問題を、「人権侵害問題」と位置づけることで、国際社会に対するアピールの強化を狙った。

そんなご縁で、その年の8月、モンゴルで開催された「脱北者に関する国際議員連盟」に、自民党を代表して出席することになった。
出席者は、自民党から他に小林温参議院議員、民主党から松原仁衆議院議員(前拉致担当相)、中川正春衆議院議員(前防災相)らだった。
諸国からは、モンゴル・イギリス・アンゴラのほか、韓国のハンナラ党(盧武鉉政権下の野党)の議員が多数出席していたが、韓国与党ウリ党からの出席はゼロだった。
各国における取り組みを説明した後、松原仁議員が、突然、「金正日を国際裁判所に引きだそう。この議員連盟で決議しよう。」と提案し、その場は結構盛り上がった。
ただ私は、「もっと実務的につめるべきだ」と発言し、結局、松原議員の提案は、最終的な声明には盛り込まれなかった。

この経緯については、会議にも同席した宋允復、北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会事務局次長が、帰国後次のような講演を行っているので、転載することととしたい。
「すみません、肝心な話が漏れてしまいまして、貴重な時間をちょっと頂きたいんですけど。
今杉野さんの話にもありましたけども、モンゴルの会議でも感じましたのは、日本の議員の先生方の意外な力強さと言いますか、人権外交というのを正面切ってですね。
押していくと言う力強い姿勢を感じたんですね。
これまでの日本と言うのは国際社会でのイメージと言いますと、おしとやかと言いますか、あんまり仰々しく表立ってこうだとかいうことは、ことさら事明けはせずに後ろでいろいろ調整役をやったりですね。
お金を回したりですね。
何とか上手くまわしていくと言うような、気配りというか心配りでやってきたと思うんですけど。
この国際会議では拉致問題ももとよりですけど、人民をあれだけ虐待している政権はもう許されないんだということで、特に民主党からご参加だった松原仁先生。
テレビ等で皆さんご存知だと思うんですけど、あの方が早く金正日体制打倒についてどう調整を取るか?と言う事をペーパーにもお書きになりましたし会議でも発言されましたし、そういうご発言も結構ありました。
それに関して結構ですね。
与党自民党からご参加された、例えば葉梨康弘と言う議員がいます。
若手の方で、これまで拉致問題で自民党の事務方を結構なさって実務をなさっている方なんですけど、その方はもうちょっと実務的に北朝鮮にどういうことがやれるか詰めていくべきだと。
韓国の議員さんは野党であると言うこともあって、金正日を国際裁判所に引き出そう!とか言って、スローガン的なエィエィオゥで盛んに意気を上げておられたんですけども、それに対してかえって自民党の葉梨議員は距離を取られる様な感じで、あとで何でですか?と聞きましたら、『ここで一緒になってエィエィオゥやったら、韓国の議員が後で帰ってね。日本の議員とつるんで紳士的にそういう事をやったとつるし上げられて、立場がますます悪くなるかもしれないから、ここでは距離を取って見せたんですよ』なんて仰るわけですよね。(笑い声)
さすがに違うな、と思って(笑い声)感心していたんです。
そういうことでここの議員、必ずしもああいう場で国際会議と言ったところで別に報じられる事もないし、有権者に知られることも無いわけですから、彼らにすればそれほど票になる事でもないんですよね。
それでもそういう見えない所で結構汗をかいていらっしゃる議員がいるので、皆さんもよく承知を頂いて応援していただければと思います。」

会議の場で、松原議員の思いは、大いに理解できた。
ただ、当時の韓国は、北朝鮮と心情的に親密な盧武鉉政権、韓国人が北朝鮮に拉致されたことすら認めていなかった。
しかもその年には、韓国で総選挙が予定されていた。
韓国には、与野党問わず、根強い反日感情がある。

もしも日本議員の提案で、「金正日を国際裁判にかける」という声明に、韓国の野党議員が賛成したらしたで問題となるし、反対したらしたで問題となってしまう。

外交は、相手のあることだ。
自らの主張を取り下げる必要はないが、1つ1つ提案をして、物事を先に進めるにしても、相手の立場を配慮し、丁寧にタイミングを選んでいくことが必要だ。
私は、民主党の方々の思いを否定するつもりはないが、物事を成就させるには、余りにナイーブすぎて、疑問符が付くという印象を、正直このとき持った。

政権交代後3年、現在の外交の体たらくを見ると、その印象は、残念ながら正しかったようだ。
拉致担当相がころころ代わることよりも、このように、物事を成就させる丁寧さと配慮の欠片もない政権が、日本に居座ることは、拉致被害者や国民にとって不幸なことと思う。