児童ポルノ禁止法改正・ここまで合意していた~自公民実務者協議の内幕
2009-7-22
7月17日の与党・児童ポルノ禁止法改正PT(プロジェクトチーム)。私たちは、7月2日及び9日に行われた自公民の実務者協議で、自公・民の両サイドが、児童ポルノ禁止法改正案について、ほぼ合意に達していた状況を報告した。
実務者協議は、自民が私、公明が富田茂之衆議院議員、民主が枝野幸男・小宮山洋子両衆議院議員、これに、法務委員会の与野党筆頭理事である塩崎恭久(自)・細川律夫(民)衆議院議員を加えて行われた。
特に、7月9日の協議は、都議会議員選挙の最中、渋谷駅近くのホテルで行われ、午後9時から11時半までの長期戦となった。
私と民主党の枝野氏は、この数年にわたり、憲法問題で相当突っ込んだ議論・講演を重ね、また、海外視察を共にしたりしている仲。
6月26日の法務委員会で、私が枝野氏と多少激しく渡り合ったのは、徹底的な議論をした上でないと妥協しないという、彼の性格を知っていたからでもある。
その意味で、実のある修正協議のためには、6月26日の質疑は必須だったと思う。
今日は、法務委員会の質疑内容も踏まえ、修正協議の概要を記す。修正協議の論点は、大きくは4つあった。
1「児童ポルノ」の対象を狭くしてはならない
児童ポルノ禁止法改正についての与党案と民主党案の相違は、新聞などでは「単純所持を禁止するか否か」と報道されることが多い。
ただ、民主党案の決定的問題点は、実は「定義」にあった。
すなわち、民主党は、現在「衣服の全部又は一部を脱いだ児童の姿態であって性欲を興奮させ、又は刺激するもの」という定義があいまいだとして、「殊更児童の性器等(性器・肛門・乳首)を露出し、又は強調したもの」に改正する案を提示してきた。
ただこれでは、児童の後姿の臀部を盗撮した画像や、性器等が露出・強調されない児童の緊縛画像が、規制対象からもれてしまう。
また逆に、民主党案では、性欲を興奮させ、又は刺激すると認められないような男子児童の上半身裸の姿態(ジャニーズ等)が、児童ポルノとして規制対象となってしまう可能性もあった。
6月26日の質疑では、私は、この点を集中的に質し、それなら、性器等でなく、臀部等も加えるべきと発言し、修正協議における民主党の柔軟な対応を促した。
その結果、7月9日の修正協議で、現在、「衣服の全部又は一部を脱いだ児童の姿態であって性欲を興奮させ、又は刺激するもの」と規定している定義を、「衣服の全部又は一部を脱いだ児童の姿態であって、殊更性器等及びその周辺部、胸部、並びに臀部を露出し、又は強調したもので、性欲を興奮させ、又は刺激するもの」と改めることで、ほぼ決着した。
このような改正なら、現行法の規制対象を狭めるものではない。
2罰則はなくても児童ポルノ所持の禁止規定は必要
6月26日の質疑で、私は、枝野氏に対し、「要は、児童ポルノというものを持っているという状態、(中略)これを、子供に対する保護のために、児童ポルノというのを持っている状態はいけないことだというふうに日本国民が考えるのであれば、それが有名な女優であろうが大手の出版社であろうが、それは関係ない話だというふうに思います。」と答弁した。
これは、罰則をかけるかけない以前の話として、「児童ポルノ」を持つことが良いことか、悪いことか、民主党としてもハッキリさせて欲しいという問いかけであった。
この問いかけには、さすがの民主党も、「良いことである」とは答えられなかった。
7月9日の修正協議では、民主党も、「何人も、みだりに、児童ポルノを所持(保管)してはならない」という規定を、罰則なしで盛り込むことで合意した。
これにより、現在、児童ポルノを所持している方については、強制ではないが、廃棄・削除の措置が促されることになる。
3構成要件を明確化し、「単純所持罪」を創設
6月26日の質疑のポイントの1つは、「『明確な意思をもって児童ポルノを所持していること』の立証には『児童ポルノを入手した過程』を明らかにすることが必要だから、『所持罪』でなく『取得罪』とすべき」という枝野氏の理屈を論駁することだった。
すなわち、例えば、数年前に多数のサイトから児童ポルノをダウンロードし、これを保存して楽しんでいた場合、その入手の過程は、本人も憶えていないことも多いし、そもそもそのサイトは、既に閉鎖というケースも多く、「取得罪」は立証不可能の場合も多い。
でも、「児童ポルノが勝手に送りつけられ、自分で楽しんでもいないのに罪にされてしまう」のは、私も理不尽だと思うし、6月26日の答弁でも、捜査は客観的に行われるべきと発言してきた。
さすがに、枝野氏も、「取得罪」への固執を取り下げ、私たちも、答弁では運用で可能としてきた、法的構成要件の明確化に応じた。
7月9日の修正協議では、侃々諤々の議論の末、「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持(保管)した者(自己の意思に基づき所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)」を罰することで合意した。
構成要件を厳格化したわけだが、「取得罪」でなく、「所持罪」で合意したことは、対外的アピールの上でも、大きな前進だ。
4創作物規制は別の法体系で
6月26日の質疑では、テレビゲーム、アニメなどのいわゆる創作物についての研究も問題となった。
この問題について、私は、「例えばテレビゲームだ、アニメだ、漫画だといったときに、これはやはり2002年の米国連邦最高裁の判決もあるわけで、一律に全く実在の児童と同じような規制を全くエビデンスなくやってしまうというのは、いかがなものかと思います。ですから、規制の態様というのは、当然実在の児童を対象とするものと違ってくるべきだし、そのための立法事実というのをしっかりと研究をしていかなければいけない。(中略)そこの部分が、これはどちらをとるかという決めの問題なんですけれども、民主党はそれを別法でやろう、私どもは一緒の法律でやろうということです。」と答弁、規制は別として、研究は行わなければならないことを訴えた。
民主党も、この法律と別の枠組みなら、否とはいいづらい。
このような議論も踏まえ、7月9日の修正協議では、「この法律とは別の枠組みで、政府が、児童を対象とする創作物の児童の権利侵害との関係等について必要な研究を行うこと」を、この法律の附帯決議とすることで合意を見た。
さてここまで合意したら少なくとも80点。
最後に問題となった1点は、現時点で児童ポルノを所持(保管)している人を処罰すべきかという点。
民主党は、そこまで処罰すべきでないという意見。
私は、任意の所持禁止規定には民主党も同意したのだし、枝野氏がここまで歩み寄ったわけだからと、これに同調する発言をした。
これに対し、与党側の塩崎(自)・富田(公)の両先輩は、与党PTの意見も聴いて判断しようという意見。
結果、この日は、お互い持ち帰ることとなった。
でも、ちょっと残念ではある。
私は、論戦を戦わせるべきときはハードに、話し合いを行うときはソフトにという立場。
委員会などでハッキリ物を言うものだから、「自白は証拠の王者」という刑法学の格言を国会で述べただけで、刑法学には無縁のネット諸氏からは、相当叩かれているらしい(この格言は、だからこそ、自白の任意性・信用性を重視しなければならないという金言でもあるのだが。)。
まあ、そんなことはどうでも良いが、翌週には内閣不信任案も提出されるというタイミングで、80点までいったのならば、「完全合意」しておきたかったというのが、率直な思いではあった。
その後、7月13日に内閣不信任案が提出され、野党は、その後一切の与党との協議を拒否する姿勢に出た。
不信任案は、あくまで「内閣」に対するものなのに、民主党の方針は、議員立法についての修正協議もストップさせるというもので、これはこれで、大変理不尽な話だ。
結局、児童ポルノ禁止法の改正案は、廃案ということになってしまったが、ここまで「おおむね合意」したという事実は、今後にとって、決してマイナスではない。
衆議院は解散になったが、今後は、この合意がベースになる。
また、このコラムをご覧になる方々も、お互いが、このような修正協議が行われることを考えながら、6月26日の論戦を闘わせていたのだという観点から、衆議院インターネットTVを見ていただけたら幸いに思う。