「長生き支援」の高齢者医療制度は必要~政局優先の「廃止主張」は「国民生活不在」
2008-7-5
6~7月は、党の地域支部の総会の季節。私は、選挙区支部長としての国政報告の中で、必ず、長寿医療制度(後期高齢者医療制度)の話をする。
話をして驚かれるのは、一部マスコミや医師会から「差別」などど批判されている、「高齢者に係る独立の医療制度を創設」が、実は、日本医師会や、野党の側からも提案されてきたということ。
(破綻寸前、かつ、不公平だった現行国保制度)
国民皆保険の最後の砦は、各市町村が運営する「国民健康保険制度(国保)」だ。
この国保制度は、国保税(保険料)5割、公費による補助5割で運営されることとされてきたが、急速に進む少子高齢化の影響で、退職後の高齢の加入者が大幅に増加、国保税収入の割合が大幅に低下、2割台となる市町村が続出、その差額を市町村が負担しなければならなくなった。
国保加入者の年間平均医療費は37万円だから、市町村が3割補填すれば、年間で住民1人当たり11万円、ただでさえ苦しい市町村財政を圧迫し、破綻の危機が目前に迫っていた。しかも、しわ寄せは、過疎地に重くのしかかっていた。
実は、「少子高齢化の進展」といっても、地域で相当なばらつきがある。
例えば、平成17年の65歳以上の人口割合(高齢化率)を見ると、市では、北海道夕張市は39.7%だったが、千葉県浦安市は9.1%、4倍強のバラツキがある。
1人当たりの年間医療費(国保以外の健康保険も含む。平成16年)は、全年齢平均で24万円だが、65歳以上だと65万円、75歳以上だと82万円と、当然と言えば当然だが、年齢を重ねるに連れて増加する。
その一方、年を経れば、仕事をリタイアするため、所得に応じて課税される国保税の納入額は少なくなる傾向にあった。
したがって、高齢化の進む過疎地の市町村は、国保税の収入が減る一方、医療費への支出はかさみ、市町村財政をますます圧迫、国保税自体を大幅に値上げしなければならない事態となっていった。
この結果、平成20年度当初で、各市町村ごとに、同じ収入の世帯に課せられる国保税(国民健康保険料)の額が、最大で5倍もの格差(勿論過疎地ほど高い)を生じることになってしまった。
起死回生の石炭テーマパークで失敗した過疎地・夕張市の住民は、国保制度破綻への不安と高い国保税にあえぎ、ディズニーランドというテーマパークで一人勝ちの浦安市の住民は、安い国保税を謳歌するという、まさに「弱肉強食」を地でいく構図だ。
私には、こんな「不安定で、不公平な制度に戻せ」と主張する政治家が、国民生活のことを真剣に考えているとは到底思えない。
(独立の高齢者医療制度の創設を主張していた小沢一郎氏)
私は、政治家の大きな仕事は、国民の将来への不安を解消し、不公平を是正することにあると思う。
その意味で、現行国保制度は、大きな見直しが必要だったわけだが、焦点は、1人当たり年間医療費が全年齢平均医療費の4倍近くになる75歳以上の高齢者に対して、どのように安定的な医療サービスを提供できるかということだった。
ただ、従来の「保険」制度の原則を墨守すると、高齢者や過疎地の住民に、さらに大きな負担を求めざるを得なくなってしまう。
応分の負担をして頂くとしても、「長生きを支援する」ためには、高齢者向けには、やはり、「保険」とは違った原理(「保障」)で、思い切って税金等を投入する制度が必要だ。
だから「保険証を2つに分ける」方式が制度が考案されたわけだ。
その過程で、元々反対だった共産党を除き、与野党、関係団体から、活発な改革案が提示された。
○民主党の提案
まず民主党だが、平成12年11月30日、参議院国民福祉委員会で、同党の柳田稔参議院議員が、自、民、公、保、社等の各党を代表し、次の決議を提案、共産党以外の賛成で可決。
「老人保健制度に代わる新たな高齢者医療制度等の創設については、早急に検討し、平成14年度に必ず実施すること。」
これを見ると、独立の高齢者医療制度の創設は、そもそも民主党からの提案だったことが分かる。
○日本医師会の提案
次に日本医師会だが、平成13年3月28日、「医療構造改革構想」を公表、その中で、「75歳以上の『後期高齢者』を対象とした新たな独立型の『高齢者医療制度』を創設」することを提言。
そもそも、「後期高齢者」という用語の造語者は日本医師会で、彼らは、医療保険制度を75歳を境にして分離しなければならないということを、強硬に主張してきた。
○自由党(小沢代表)の提案
最後に小沢自由党だが、平成15年に国会に提出した「国民生活充実基本法案」に、「高齢者についての独立の医療保険制度の創設」を明記、高齢者とそれ以外の者とを分ける保険制度を強力に主張した。
それを、今になって民主党、共産党の選挙協力を得たいためか、「『高齢者とそれ以外の者の保険制度を分けるのは差別』だから、『廃止して元の(不安定・不公平な)制度に戻せ』」と、言い出す。
これでは、政治家でなく、口ばかりの政治屋と間違われてしまいかねない。
(厚生労働官僚は真摯に反省すべき)
ただ問題は、平成18年に法律が成立してから2年、高齢者に対して、ほとんど説明が行われてこなかったことだ。
すなわち、
○現在の市町村ごとの国保制度は破綻寸前で、しかも不公平
○長生きを支援するためにも、医療費については、高齢者自身の負担を1割に抑え、5割を税金から、4割を現役世代から補填
○地域的不公平をなくすため都道府県単位での医療制度とする
ために、「保険証が今までと別のものになります」ということを、丹念に説明していれば、誤解は生じなかったはずだ。
そして、官僚達も、持続可能な「長生き支援」の医療制度を創るための制度改正であるという情熱を示せば、「怒り」は「理解」に変わっていたはずだ。
それを何も説明もないまま、自宅に、「後期高齢者医療保険者証」なるものが送りつけられ、「前の保険証は破棄して下さい」と言われれば、お年寄りは、誰でも不安になってしまう。
しかも、「後期高齢者」があるということは、「前期」があるということで、あちこちで、「俺達は早く死ねと言うことか」という声が上がる結果となった。
又聞きだが、厚生労働省の役人は、「制度改正で負担増を求めたわけではなく、6~7割のお年寄りの保険料は今までより安くなるはずだから、特に説明はしなかった。」と言っていたという。
このような姿勢は、真摯に反省し、正していくべきだ。
(「長寿医療制度」は制度の改善こそが大切)
厚生労働省の失態は失態としても、制度は、開始当初から百点満点ということはあり得ない。不断の見直しと改善が必要だ。
その意味で、今回の制度は、
○「後期高齢者」の医療費削減でなく、「長生き支援」であることをもっと説明すべきだった
○低所得者の減免措置の配慮が欠けていた
○年金からの天引きだけでなく口座振替も認めるべきだった
など、運用上の問題が大いにあった。
その「荒っぽさ」は、しっかりと直していくべきだ。
私たちは、与党の責任において、「制度の改善」をしなければならない。
そして、私たちは、不断の改善を重ね、持続可能な、本当の「長生き支援医療制度」を創っていかなければならない。
ただ、何度もいうように、どこかの党のように、「制度の廃止と前の制度への復帰」を声高に主張するのは、政治家としてはあまりに無責任で、国民生活を無視した政局優先の姿勢であることは明らかだ。
それよりも、私たちは、お年寄りに、安心して長生きしていただくためにも、政局に翻弄されず、良い制度を作っていきたい。