給油新法審議が参院へ~民主党は「国民の生活と命」の大切さをどう考えているのか
2007-11-18
11月13日の衆議院本会議。テロ特措法の期限切れ(11月1日)により停止中の自衛隊によるインド洋での給油活動を再開するための法案が可決され、参議院に送付された。
もっとも、法案が参議院に送られたからといって、参議院連絡担当の国会対策副委員長である私は、一向にヒマにならない。
参議院の審議状況を掌握した上、例えば、15日の守屋前防衛事務次官の喚問では、質疑者(山本一太参院議員)に対し、法律関係の知識や各種の情報の提供を行うなど、黒子としての役割も果たすことも求められているからだ。
それもこれも、参議院では、民主党が第1党で、自・公両党はあくまで第2党という現象故で、今ほど、自民党として、衆参連携の全員野球が必要なときはないからだ。
でも、この法案の行方、決して容易でない。
民主党は、既に反対を表明、法案が参院に回ってきても、報道によれば、審議の先延ばし・廃案を目論んでいるようだ。
ただ、このような態度は、参議院における多数を良いことに、「国民の生活と命」をないがしろにしているとしか、私には思えない。まず、国民生活を守るという観点。
国民生活を第1に考えた場合、資源小国であるわが国としては、食糧安全保障を確立しつつ、資源の輸入先と工業産品の輸出先を安定的に確保する努力が必要だ。
もっとも、最近、民間の一部の経済学者や経団連の方々は、わが国は、農産品は自給でなく、外国からの輸入に任せる位の発想が必要で、米国や豪州等の国との自由貿易協定などを早急に締結することで資源の安定的輸入先の確保を図るべきと主張されているふしもある。
でも、「資源の安定的確保」や「経済連携の強化」のベースとして、自衛隊によるインド洋での給油活動が果たしてきた役割が極めて大きいことは、余り触れられない。
このことについて、私は、11月2日に行われた経団連と自民党の連絡会議の席上、私は次のように言い放った。
「経団連の皆さんの、農業に悪影響が出ても、日米・日豪などの間の自由貿易協定を結ばなければ、資源安全保障の確保が図られないというブラフ(脅し)も、1つの考えかも分からない。」
「しかし、今、日米・日豪の経済関係が良好なのは、決して自由貿易協定が結ばれているからではない。ともに友人として、自衛隊がインド洋での給油を行い、テロとの戦いに参加していることが大きな理由であることを、経団連も理解して欲しい。」
「経団連が今なすべきことは、自由貿易協定の宣伝ではないはずだ。昨日中断してしまった自衛隊によるインド洋での給油継続が、わが国経済のために必須であることを、国民に対し、強く訴えるべきではないか。」
私は、現在、参議院で、民主党によるあからさまな審議引き延ばしが行われ、次第に長期化する「インド洋での給油中断」という事態が、わが国と諸外国との経済連携に、ボディーブローのような悪影響をもたらすこと危惧している。
次に、国民の命を守るという観点。
わが国は今、いずれも日本人が犠牲となった、2つの国際テロの問題を抱えている。
1つは、国際テロ組織アル・カイダ及びこれを支援するタリバン政権による9.11テロ。世界貿易センタービルに拠点を置いた日本の現地法人も標的となり、24人の日本人が犠牲となった。
私達は、この24人が、決して事故の巻き添えになったのではなく、明確な意図をもって殺害されたことを忘れてはならない。
2つは、言うまでもなく、北朝鮮当局による日本人拉致問題。
民主党の中には、わが国は、アル・カイダやタリバンに対する監視活動への協力でなく、アフガニスタン民衆への民生支援を行うべきで、インド洋での給油活動は認められないと、一見もっともらしい主張をされる向きもある。
しかし、このような主張は、国際的な常識に照らせば、拉致問題に対するわが国の姿勢に疑問を投げかける危険をはらんでいる。
そして、私がかつてつきあった米国の外交官(国際テロ担当)なら、多分、
「日本が、国際テロ問題に対し、そのような態度をとられるのなら、北朝鮮当局による拉致問題についても、戦争一歩手前の経済制裁は即刻中断すべきで、むしろ、韓国などども協力し、何の罪もない北朝鮮民衆に対する民生支援を行うべきではないか。
その日本が、米国による北朝鮮の『テロ国家指定解除』の動きに反対するのは、理解に苦しむ。
日本は、北朝鮮が日本人を手にかけたら執念深く追及するのに、イスラム政権が日本人を手にかけたら何も感じないのか。実は北朝鮮に対する偏見でも持っているのではないか。」
位に揶揄(やゆ)しかねない態度だと思う。
いずれにせよ、今国会における一連の動きは、拉致問題の解決を遠のかせることとなる可能性が強い。
これまで、北朝鮮人権法を立案するなど、拉致問題の解決のために、一生懸命取り組んできた私としても、極めて寂しい限り。
そもそも、24人もの国民が殺されておいて、殺人組織・政権に対する国際社会の監視行動から離脱するということは、日本が、自国民さえ守らない国家であると宣言しているに等しいと思う。
守屋前次官問題など、防衛省のウミは徹底的に出し切ることは当然だが、その一方、テロとの戦いの議論は先送りすべきではない。
しかも、民主党の皆さんは、参議院では多数党、「与党が何とかしてくれる」ことはあり得ないことを是非認識して頂きたい。
その上で、国民の生活と国民の命を守ることを第1義として、給油新法の問題を考えて欲しいものだ。