自民党コメ緊急対策策定に参画(2)~「2の矢」「3の矢」こそ大切
2007-11-10
平成19年産米の需給見通しが、約23万㌧の供給過剰というニュースが駆けめぐると、市場は早速反応し始めた。10月初めの入札で、昨年比60㎏数百円の下落。さらに、市場には、数千円下落するという噂も流れ始めた(ただ、消費者段階では、60㎏千円下がって、ご飯1杯(精米60㌘)1円の恩恵でしかない)。これは、農家にとっては大問題だ。
平成18年の全銘柄平均価格は60㎏14800円だったが、集荷を行う全農(全国農業協同組合連合会)などの取り分(流通経費)が2000円強で、農家の手取りは、まあ、60㎏12000~13000円だ。
ところが、昨年の生産コストは、大まかに言って(60㎏当たり)、物財(種苗、肥料、燃料等)費などが10000円、家族労働費が7000円だ。
つまり、農家にすれば、本来7000円換算の家族労働費を、3000円で我慢することで、何とかやっているというのが現状だ。
しかし、もしも今年、市場が過敏に反応し、前年のコメ価格を2000円から3000円も割り込めば、売り上げで物財費も賄えない農家が続出することになる。
政治が何とかしなければ、多くの農家が、農政に決定的なノーを突きつける事態が避けられない状勢といっても過言ではない。もっとも、数十年前、「生産者米価」や「消費者米価」を巡り、秋になると永田町が沸き立った時代は今は昔、米価の決定は、基本的には市場原理に委ねられている。
その中で、政府・与党がとり得る対策は、緊急時用の「備蓄米」を積み増し、需給ギャップを解消する程度しかない。
ただ、この政府米買い上げについても、財政負担という課題のほか、いくつか問題がある。
1つは、現在の政府計画では、備蓄米の適正数量は100万㌧が上限で、しかも、従来は、毎年数十万㌧を政府が買い上げ、ほぼ同量を市場に放出してきたということ。
しかし、需給引き締めのためには、市場への放出は極力抑制しなければならない。
平成19年6月末の備蓄米在庫は77万㌧。上限100万㌧として、市場への放出を行わない場合、政府は23万㌧しか買うことができず、これだけでは需給ギャップを解消できない(その後の精査で、10月末現在で67万㌧の在庫見込みということが判明、33~34万㌧の買い入れが可能となった)。
2つは、これまでは、10月15日現在の作況を勘案して、11月に、政府米買い入れの計画を策定していたこと。
しかし、市場における米価下落は既に始まっている。
市場が、「情報」に過敏に反応することを考えると、政府米買い入れの決定とアナウンスは、11月では遅すぎる。
3つは、政府米買い入れにより米価安定が図られたとしても、最も得をするのは、「生産調整に協力しなかった農家」ということ。
前回コラムで、米価下落の主因が、生産調整非協力の過剰作付けにあると書いたが、財政出動で米価安定を図ることで、生産調整を守ってまじめに生産した農家もほどほど程度に得をするものの、生産調整に従わずに好きなだけコメを作った農家の方が大いに得をするという皮肉な結果となり、モラルハザードを来しかねない。
これらを踏まえ、私は、10月初めから、農業基本政策小委員会(西川公也委員長)などの場で、次のような主張を展開、執行部の容れるところとなり、実際の対策のとりまとめでは、自民党としての要請原案の作成などを任されることとなった(今回の緊急対策は、最後の段階まで役所の方を入れず、政治家のみで議論したため、事務的な書き手が必要だったという面も大きい。)。
○政策ツールは限られており、今年は、需給ギャップ分(34万㌧)を備蓄米制度を活用して政府が買い入れざるを得ない。また、昨今の異常気象を勘案すると、100万㌧の備蓄上限は、今少し積みますことも検討すべき。
○市場へのアナウンスは、早ければ早いほうが良い。政策決定は10月中旬にも行うべき。
○政府米買い上げと併せ、来年は、全コメ農家に生産調整への協力を促す明確なメリット措置を早急に打ち出すことが必要。
そして、自民党としての申し入れ案が、10月24日の農業基本政策小委員会で了承されるや、その日のうちに、私も、諸先輩らと党4役の了承取り付けに歩いた。
また、翌25日には、保利耕輔総合農政調査会長らが、総理、財務大臣、農水大臣への要請を行い、私も農水大臣への要請に同行。
そして、この日の深夜まで農水省・財務省とも折衝が行われ、26日午前中には、
○本年は、政府米34万㌧を買い入れ、1年間市場に放出しない。
○このほか、全農は、18年産米の在庫を(約10万㌧)、主食米でなく飼料米に回し、市場に放出しない。これに伴う所要額は、政府が半額を助成する。
○生産調整参加者への明確なメリット措置を早急に打ち出す。
○「希望と安心」の農政確立のため、必要な政策の見直しを行う。などを骨子とする緊急対策をとりまとめることができた。
ただ、今回の緊急対策は、あくまで「1の矢」、これから、「2の矢」、「3の矢」を、それこそ矢継ぎ早に打ち出していかなければならない。
その中で、消費者の理解と協力を得つつ、生産者にも、「希望と安心」を実感できる農政の確立に、私も力を尽くしていきたい。