自民党コメ緊急対策策定に参画(1)~過剰作付けが大問題に
2007-10-30
自民党議員の多くが総裁選に熱中していた9月の下旬、農林水産省が、平成19年産米のコメの作況について説明に来た。作況そのものは99(平年作100)だが、米の過剰作付けや消費減退の影響で、供給が、需要(約800万㌧)を、23万㌧程度上回るとのこと。
これに18年産米の在庫約10万㌧を加えると、まさに大幅なコメ余りだ。
この数字を聞き、私は、開口一番、「これが発表された途端に(市場価格が)暴落するな」と唸った。
農業が、産業として持続的に成り立つためには、市場価格が生産コストを吸収できる条件整備を行うことが大切だ。このため、国際ルールに基づく関税措置と生産コスト縮減に併せ、確実な計画生産(生産調整)の実施を進めていかなければならない。
ところが、後述の理由で、私の地元茨城もそうだが、特に今年は、計画生産に応じないコメ農家も多く、結果的に大幅な供給過剰。でも、今年のコメ価格が暴落すると、最も被害を被るのは、実は、計画生産に協力してきた真面目な農家、これでは、ただでさえ崩れつつある農政への信頼が、完全に失われかねない。その日から、コメ政策に追われる1ヶ月が始まった。まず、作況が99(9月15日現在推計)と平年作なのに、何故、大幅な供給過剰という事態が生じたのだろうか。
その大きな理由は、過剰作付けの大幅増加だ。
わが国の主要食糧である米だが、消費の長期減退を受け、生産目標の割り当て、いわゆる計画生産(減反・転作等)を行っている。
ただ、この「計画生産」に反した、いわゆる「過剰作付け」の面積合計は、平成16年に2.5万㌶だったものが、平成19年は、7.2万㌶と大幅に増加してしまった。
10㌃(反)当たり収量が平年作約500㎏だから、これだけで36万㌧の生産過剰だ(平成19年の供給過剰は、30数万㌧と見込まれ、この数字が、生産過剰分に丸々匹敵。)。
何でこんなに過剰作付けが増えてしまったのだろうか。
1つには、本年産米から、制度としての計画生産の実施主体を、行政から生産者団体(農協系統)に移し、行政の関与を小さくするという政策をとったことも大きい。
実は、農協系統の米の集荷シェアは全国で5割程度で、特に私の地元では、3割強にしかならない。
いくら「官から民へ」といっても、全ての生産者に対する計画生産の徹底のためには、やはり行政の関与は必要だ。
だから私は、農林部会や農業基本制度小委員会の場で、従来何度となく、行政による指導強化を、口を酸っぱくして求めてきた。
そのたびに、「しっかりやる」との返答はあったが、結果的には、行政の方は、他の農政改革問題への対応に忙殺され、現場では、余り丁寧な対応ができなかったようだ。
もう1つは、実は全くの事実誤認なのだが、政府・自民党農政が、各種マスコミや民主党などにより、「小規模農家切り捨て」と徹底的に非難され、特にコメ農家の間に農政不信が高まり、結果として、「政府や農協を信用しない」生産者が増加、「信用できないから休耕・転作田にもコメを作ろう」となってしまった節があることだ。
今、「戦後最大の農政改革」が行われていると言われている。
そして、コメ、麦、大豆といった穀物について、北海道で10㌶、内地で4㌶以上を耕作する農家にのみ、補助金を集中すると報じられている(わが国農家の1戸当たり耕作地は平均1㌶強)。
この中で、既に相当手程度の規模拡大が進んでいた麦・大豆農家については、確かに、補助金を集中する政策がとられたが、その販売農家数は、実は16万戸程度にすぎない。
ところが、コメ農家は、その10倍の約160万戸、小規模・高齢の農家も多く、現場のことを考えると、実際問題として、政策の転換は徐々に行って行かなければならない。
だから、ことコメについて見れば、「大規模農家に補助金を集中」などという政策体系はとり得ないし、現実にとってもいない。
本年度も、小規模農家も含めた生産調整(計画生産)参加者に対し、前年同額の減反補助・転作奨励を確保した上、一部、内地4㌶以上等の耕作農家に、コメの市場価格が下落した場合に発動される補助制度(下落しなければ発動されない)を講じたわけだ。これはまさに、ほぼ前年並みの政策だ。
しかし、現場では、コメについても、麦・大豆同様に、「一定規模以上の農家に補助金を集中」という、誤った理解が先行してしまった(説明すべき農林水産大臣が、事務所費問題等で発信力を減殺されたことも痛かった。)。
加えて、私には、本年の代掻き(田植え前の農作業)時期に、民主党が、参議院選挙向けに、次のような「政策マグナカルタ」等を提示したことの影響も大きかったという思いもある。
・コメの減反・計画生産はやめ、生産者に自由に作ってもらう。
・コメの販売価格と生産費の差額は、政府が農家に対し、税金で補償する。
これなら、農家は、自由に、いくらコメを作っても損はしない。
「民主党」は、一応「政権を目指す公党」のはずだから、まさか「単なる選挙目当てのいいかげんな政策」を提示するとは誰も思わない。参院選で民主党が多数を占めれば、公約に忠実な内容の法案を出してくると、国民の多くは思うだろう。
その党が、こんな「パラダイス」政策を示してきたら、かなりの農家は、「民主党政権なら減反・転作不要」と、休耕・転作田にイネを植え始める。私の地元でも、そんな声を聞いた。
そして、この臨時国会では、参院第1党になった民主党から、正式に、「農業者戸別所得補償法案」なる法案が提出され、私も、自民党の作業部会メンバーとして、10月29日、提出者代表の平野参議院議員(民主)から、直接法案説明を伺った。
30分経過後、説明者側が一方的に質問を打ち切るという説明会であった。結論的には、選挙時の主張は、大幅後退の印象だ。
詳しくは別の機会で書くが、まあ、ことコメに関しての説明も、次のように、参院選時に民主党が主張した「パラダイス政策」の公約とは、「似てもいず、全く非なるもの」だった。
・コメの生産目標数量は、国が決定、県、市町村、生産者にブレイクダウン(直訳すると「下達」)する。
・(減反などにより)計画生産に忠実に従ったコメ農家には、目標数量の範囲で販売価格と生産費差額を税金で補償する。
・割り当ての生産目標数量に従わない(市場に「闇米」を提供する)農家には、税金による補償は一切行わない。
・過剰生産をしながら補償金を申請した農家に、刑事罰を課す。
まあ、言ってみれば、生産者の自由はどこへやら、国による独裁的コメ生産管理政策だが、この点も、詳しくは別の機会に譲る。
「羊頭狗肉」とはまさにこのことかと思うが、選挙のためだけに、実行するつもりもない、「公約」と称する空手形を出されるのは極めて迷惑な話だ。
でも、所詮他党の「絵空事政策」、今は、目前の過剰米対策の方が重要だ。
我々は責任政党、具体的な「解」を出さなければならない。
今年のコメをどうするか、来年のコメをどうするか、いかに国民負担(税金投入)を少なくして、消費者・生産者双方の信頼を勝ち得ることができるか、私が、保利総合農政調査会長・西川農業基本政策小委員長の政策づくりに参画した、9月末からのホットな1ヶ月のことを、次回コラムで書く。