米価高騰と備蓄米放出の背景

2025-3-6

令和7年2月14日、江藤農林水産大臣は、最近の米価の急騰と品薄感を背景に、政府備蓄米21万㌧を、1年の買い戻し特約付きで、集荷業者に交付する措置(いわゆる備蓄米の放出)を正式に発表した。
そこで、今回は、昨年来米価が上昇し、今年に入ってからもなお高騰している背景などについて、私なりの分析を加えてみたい。

昨年の米価上昇の背景

令和5年産米については、全銘柄平均の相対取引価格(10月時点)で、1俵15,315円-流通経費で生産者から買い取られた(流通経費は1500~2000円)。これは、その前年を約10%上回っていたが、この20年間程度の米価としては、標準的な米価ということができた。
 これが、令和6年の夏頃から、特にスーパーの店頭価格の上昇が顕著になった。
確かに令和5年のコメの生産量は661万㌧で、当年の需要予測よりも数万㌧少なかったということに加え、インバウンドによる消費が需要を押し上げた、あるいは、高温障害により精米歩留まりが下がったなどの説が提起された。
ただ、令和6年のインバウンドによるコメ需要は前年比1万㌧増程度で、高温による精米歩留まりの低下も、1.6%程度あったが、それでも令和6年6月時点の民間在庫は153万㌧あり、農林水産省も、米価の急上昇ということは予想していなかったようだ。
ところが、令和6年8月8日、宮崎県沖の地震を契機に南海トラフ地震臨時情報が発令され、西日本を中心に、コメの買いだめが発生した。
これまではどちらかというとコメ余りの状況が続いており、主産地でない西日本や大都市圏では、小売りや中小卸の在庫がなくてもすむ状況が続いていた。
そこに、スーパーの棚からコメがなくなるという自体が出来し、スーパーとしては、高い価格でも品揃えをせざるを得ず、店頭価格は急激に上昇した。
 この時点で、農林水産省は、令和6年夏の一時的なコメの高騰は、端境期の一時的なもので、令和6年産の新米が市場に出てくれば、落ち着くものて見ていた。

農林水産省の見通しが外れた理由を考える

令和6年産米は、作況101と平年並みだったが、10月時点で、1俵23,715円(農家の手取りはここから流通経費が引かれる)と、作況90と不作だった平成15年以来の高値で取引された。
この価格については、「高すぎる」という意見もあれば、「今までが安すぎた」という意見もあった。ただ、問題は、この時点で、コメの「適正価格」がいくらなのか、また、コメの生産にいったいどれ位のコストがかかるのかということが、生産者にも、消費者にも、必ずしも明らかになっていなかったということだ。
だから私は、自民党の委員会で、早急にコストの調査を行い、令和7年産の営農計画に反映させるべきと主張し、これが令和6年の補正予算で事業化された。

さて、令和6年産米の生産量は679万㌧、これは、令和6年~7年にかけての需要予測674万㌧を上回った。先にも述べたように、インバウンドによるコメ需要が増加したとしても1万㌧程度、しかも、新品種の投入等により、令和6年産米の精米比率は、令和5年産米のそれを1%上回った。
このため、農林水産省は、米価は平年よりも高い水準とはいえ、安定的に推移するものと予測していた。
しかし、この予測は見事に外れ、コメの店頭価格は令和7年に入ってもさらに上昇、卸同士では、2月時点で1俵4~5万円で取引されている。

農林水産省は、投機的な動きもあり、どこかでコメが滞っていると見ているようだが、私は必ずしもそうは思わない。
投機的な動きでコメの価格が高騰したのであれば、2月14日の備蓄米放出を契機に価格は下がるはずなのに、現実はそうなっていないからだ。
私はむしろ、今までのコメ余りの状況で在庫を持たないできた大口実需者や小売業者、さらには中小の卸が、令和6年の米不足を受け、在庫を持つようになったからではないかと考えている。
これは、在庫という形で消費者に食べていただく需要でないため、実需674万㌧の外の1年限りの需要増だが、それでも、少しずつ在庫を積み上げれば、全国で数十万㌧のオーダーにはなるものと思われる。

適正な米価で持続可能な食料システムの構築を

本年に入り、先に述べた令和6年度補正予算で措置されたコメのコスト調査の速報値の説明を受けた。
令和4年における関東の全コメ銘柄の平均値だが、(速報値であるため、現時点では非公表。このため、百円台は四捨五入し、概数で記載する)
生産コストは、玄米 1俵当たり14,000円
生産者の手取りは、玄米1俵当たり11,000円
スーパーの店頭価格は、精米60㌔22,000円、5㌔2000円
とのことだった。
令和4年は、その前の年の令和3年に過剰在庫により米価が下落したため、主食用米以外の作付けを増やし、米価安定のための努力を行ったにもかかわらず、結果としてみると、農家段階では赤字という結果だったわけだ。

そして、この「生産コスト」には、「家族労働費」は含まれていない。そのことを考えると、生産コストに2~3割を上乗せした価格でないと、持続的なコメの生産は難しいような気がする。
令和6年は、令和4年と比べ、物価高の影響で、肥料や資材などのコストが上がっているわけで、私自身は、1俵23,715円(農家の手取りはここから流通経費が引かれる)という令和6年10月時点のコメの価格は、「これまでと比べると高い」ことは間違いないが、「高すぎる」とまでは言えないと考えている。(この価格だと、店頭価格はおおむね5㌔3000円程度と推計される)

ただ、コメが、卸同士で、1俵4~5万円で取引されるという状況は明らかに異常だ。(店頭価格は、5㌔4000円以上になってしまう)
この物価高の中、消費者の家計を圧迫するだけでなく、長い目で見れば、コレまで以上に消費者のコメ離れを招いてしまう。
 また、生産者サイドでは、それだけ儲かるのならと、主食用米の過剰作付けの誘因となり、供給過剰による米価暴落を招きかねず、次に米価が暴落したときは、多くの農家が廃業してしまうことも懸念される。

このような理由から、私自身は、本年に入ってからは、早めに備蓄米を放出すべきという意見に傾いていた。
しかも、もしも本年、過剰供給が生じたとしても、「買い戻し特約」により、毎年の備蓄米購入量20万㌧に加え、さらに21万㌧を市場から隔離することができるため、米価の暴落を防止できるという効果もある。

いずれにせよ、このような営みにより、生産者、消費者の双方が納得できる持続的なコメの生産システムを構築していきたい。