国民民主党の原案では「お金持ちの方がより得になる」 ~ 一定の所得制限が必要ないわゆる「103万円の壁」の議論

2025-2-25

本年に入ってから、いわゆる「103万円の壁」についてのニュースを見聞きしない日はない。
ただ、地元の皆様と話をしていても、良く説明しないと、議論がかみ合わないことが多い問題でもある。
そこで、今回は、この問題を取り上げてみたい。

現在議論されているのはパート勤務配偶者の年収の壁問題ではない

まず、現在問題となっているのは、よく言われる、パート勤務の配偶者の年収が103万円を超えると、扶養から外れてしまうため、年末近くなると働き止めをしてしまうという、「103万円の壁」の問題とは、全く別ということだ。
ちなみに言うと、パート勤務配偶者年収の「103万円の壁」については、配偶者特別控除という制度の創設により、年収が103万円を超えても、年収が201万円になるまでは、「扶養から外れる」のではなく、段階的に「扶養控除」(満額で38万円)の金額が縮小される仕組みになっている。
 このように、103万円の年収を境に、「配偶者控除」から「配偶者特別控除」に名前が変わり、しかも年収150万円から201万円まで控除額が段階的に下がることとはなるが、実質的には、「パート勤務配偶者年収の103万円の壁」というのは存在しない。
それでも何故「パート勤務配偶者年収の103万円の壁」が存在していると思っている国民が多いのかと言えば、私は、このような制度改正が行われてきたことを正確に報じてこなかったマスコミの責任が大きいと思う。
では、国民民主党は、どのような主張を行っているのだろうか。

「103万円を178万円へ」ということの意味

さて、ここまで、「控除」という言葉を使ってきたが、これは、「税金の計算の時に、総所得から差し引かれる金額」のことで、「総所得-控除額=課税対象所得」ということになる。
この「控除」には、先に述べた「配偶者控除」や「配偶者特別控除」のほかにも色々な種類があり、議論が極めて複雑になるため、詳しくは論じない。
ただ、ほとんど全ての納税者に関係する「控除」が、「基礎控除」と「給与所得控除」だ。今回国民民主党は、この2つの「控除」を引き上げて、「手取りをふやす」と主張しているわけだ。
現在、基礎控除の金額は48万円、給与所得控除の金額が最低55万円となっており、その合計額が103万円であるところ、これを、「全ての所得階層で、178万円に引き上げよ」と言うわけだ。
つまり、国民民主党の主張通りの税制改正を行えば、全ての所得階層で、課税対象所得を75万円引き下げることとなる。

お金持ちの方がより得になる制度で本当に良いのか

課税対象所得を75万円引き下げれば、確かに、全ての所得階層で減税になる。でも、減税額は、お金持ちの方がはるかに大きくなる。
これは、所得税に累進税率が採用されている(住民税は10%の均等税率)ことによるものだ。
ちなみに、課税所得195万円の方にとっては、所得税と住民税合わせて11万2500円の減税になるが、課税所得1000万円の方には24万7500万円、課税所得2000万円の方には37万5000円の減税と、国民民主党の主張通りの制度を導入すれば、お金持の方がより得をする仕組みとなってしまうのだ。

一定の所得制限は必須

現在、20代男女の平均年収は約360万円、30代については約451万円だという。これらの層の「手取りを増やす」ため、「基礎控除と給与所得控除」を引き上げ、課税対象所得を引き下げることに、私は反対しない。
そして、この物価高の中、日々のやりくりに苦労している皆様についての控除額を、現行の「103万円」から「178万円」への引き上げを目指す方向性を否定するものではない。
しかし、「基礎控除と給与所得控除」の引き上げを、全ての所得階層について行うことは、お金持ちを優遇することとなるため、反対だ。
では、一定の所得制限をどの辺に設定するのかということだが、当初自民党が提案した「200万円」というラインは、いささかシャビーな印象は否めない。
そこで、現在、850万円(詳しい説明は省くが、所得850万円を超えると、これまで所得に応じて増加してきた給与所得控除の金額の増がなくなり、一定額になる。)というラインが検討されているが、私は、30代の平均年収の2倍弱に当たることからも、おおむね妥当と思っている。

いずれにせよ、詳細は今後の議論に委ねられることとなるため、注視していくこととなるが、自民党は責任政党として、バランスのとれた政策を実現すべきであって、少数与党であるからといって、国民のためにならない妥協をしてはならないと思う。