飼料用米による転作を主導し米価を安定 ~ 雇用創出のため、高収益作物にも力を入れる

2024-6-5

茨城県南地区は、日本有数の穀倉地帯だ。
例えば、新利根川流域にかかる4市町(龍ヶ崎市、稲敷市、利根町及び河内町)は、総面積約350平方キロの約39%を水田が占め、これは全国平均の約6倍に当たる。
ただ、この地域の水田は、現在も「水郷」と呼ばれている低湿地に位置し、排水にいささか難があるため、乾燥地域の作物である麦などへの転作には、不向きという特徴があった。
戦後、人口増の中で食料が足りず、コメの増産が叫ばれた時期(昭和50年代半ばまで、わが国は米穀を自給できなかった。)は、コメの農家の経営は安定し、この地域も賑わいを見せた。
しかし、その後国民の食生活が欧米化し、日本人が食べるコメの量は、急激に減少、需要減に伴う供給過剰のため、コメの価格は、大幅に下落することとなった。
政府は、コメの供給過剰に対処し、その需給を引き締めてコメの価格安定を図るため、麦、大豆などへの転作を奨励してきたが、県南地域では、なかなか転作自体か難しく、コメの過剰生産が問題となっていた。

 一方私は、平成18年、自民党の畜産酪農委員会の委員長に就任、畜産対策の責任者となったが、平成20年には、輸入トウモロコシの価格高騰に伴い、家畜の飼料価格の急騰が問題となっていた。そこで、コメ、特に多収穫米を、家畜の飼料に振り向けることにより、イネを栽培しつつ、「転作」を達成するため、平成20年の補正予算で、飼料用米に対し、10㌃当たり8万円の補助金を措置することに成功した。
この施策は、飼料自給率の向上と、イネを栽培することで「転作」を達成するという、一石二鳥の施策ではあったが、その一方で、10㌃当たり8万円という、多額の予算を要するものでもあった(この予算を持続可能なものとする方策については後述)。

飼料用米の作付けで転作を達成するという政策は、最初のうちは、農家の間に、「丹精込めて育てたコメを、家畜に食わせるのか」といった抵抗感もあったが、米価が長期的に下落するトレンドの中で、飼料用米の作付けは徐々に増加していった。また、これには、政権に復帰した自民党が、平成25年以降、飼料用米生産に力を入れるようになったことも手伝った。

ただ、飼料用米への転作で需給が引き締まり、主食用米の価格が安定し出すと、再び主食用米の生産を増やす農家が多くなり、令和元年と2年は、米価は再び下落に転じることとなった。
令和3年は、さらなる主食用米価格の下落が予想されたが、当時農林水産副大臣だった私は、「コシヒカリのような主食用米品種でも良いから、仕向先を飼料用米に振り向け、主食用米の受給を引き締めよう」と全国の農家にお願いし、結果、その年以降の主食用米の価格安定という結果となった。

ただ、このような緊急的な手法が、永続的に消費者の理解を得られるとは思えない。すなわち、仕向先を飼料用米に振り向ければ、10㌃当たり8万円の補助金が支払われるわけで、いわば、税金を使って、米価を安定させることになるからだ。
そこで、農林水産省の皆さんと相談し、令和7年以降は、多収穫品種を飼料用米として生産する場合の補助金水準は維持するものの、主食用品種を飼料用米として生産する場合の補助金水準は徐々に減額することとした。
このようにして、多収穫品種米の種苗を確保しておけば、非常時には国民が食べることができ、食料安全保障の観点からも、消費者の理解が得られやすく、持続可能な政策となるわけだ。

もっともこのような政策を講じ米価を安定させても、米作だけでは、かつてのように、地域の雇用を創出することはなかなか難しい。
すなわち、農水省の試算では、平成16年当時は、8㏊の水田でコメを作れば、他産業並みの所得が得られたが、現在は、20㏊が必要ということだ。米作での雇用は、確実に減少しており、それがこの地域の人口社会減の一因となっていてる。

農業で地域の雇用を創出するためには、高収益作物を作る農家を育てることが必要だ。
例えば、レンコンの場合は1㏊の蓮田、ミニトマト等の施設園芸の場合は30㌃ほどのハウスで、それぞれ他産業並の所得が得られるということだ。
私は、農林水産副大臣時代、新規就農者向けを中心に、施設園芸等の補助を行うことができるメニューを用意させていただいた。
現在、地元自治体と連携をとりながら、いろいろな国のメニューを実際に使っていただくよう示唆をさせていただいている。