森友学園問題とは何だったのか~喚問者・葉梨康弘が語る証人喚問の舞台裏(前編)

2017-6-2

1 はじめに

本年前半、世間の話題をほぼ独占したのは、学校法人森友学園(理事長 籠池康典氏(当時))に対する国有地の払い下げ問題でした(私自身は、この問題は、国の税金を使って、国会で長期間追及すべき問題なのかというと、いささか疑問はあります。)。
ただ、本件は、大阪府豊中市所在の国有地の払い下げ時の値引き問題から、森友学園の経営する幼稚園の特異な教育方針や籠池氏の独特なキャラクター、さらに、安倍総理夫人が、開設予定の小学校の名誉校長に就任していたことなど、論点がどんどん拡散し、マスコミも、連日大きく取り上げることとなりました。
そして、平成29年3月23日、予算委員会では17年ぶりとなる証人喚問が、衆参両院において行われ、私は、衆議院予算委員会で、自由民主党を代表し、籠池氏に対する尋問(証人喚問における質問は、正式には「尋問」と言います。)を行いました。
今回は、「森友学園問題とは何だったのか」と題して、この間の経過をまとめてみました。

2 衆議院本会議における討論まで

(新聞記事が発端)

ことの発端は、2月9日付けの新聞記事でした。同日、朝日新聞が、「学校法人に大阪の国有地売却 価格非公表、近隣の1割か」との見出しで、森友学園が、不当に安く国有地を購入したのではという疑惑があるとした上で、その土地に新設が予定されている小学校の名誉校長に、安倍総理夫人の昭恵氏が就いていることを報じます。
森友学園が購入した土地は、鑑定評価額が約9億5千万円でしたが、地中に大量のゴミ(産業廃棄物)が見つかり、その除却費用約八億円を差し引き(いわゆる「値引き」)、森友学園に対して1億3千4百万円で売り渡されていました。
その後、衆議院の予算委員会で、野党から、「総理や総理夫人が、値引きに関わっていたのでは」とか、「国土交通省や財務省は、値引きの具体的根拠を示せ」などの質問がなされました。
総理からは、「自分や夫人の関与は一切ない。」との答弁が、財務省や国土交通省からは、「値引きは適正だった」という答弁かあったのは、ご記憶の方も多いと思います。
ただ、財務省や国土交通省の説明はかなりわかりにくく、この時点で、国民の多くが、「やはり八億円もの値引きは不当」と考えていたのは事実だと思います。

(安倍首相頑張れ!!)

籠池氏は、義父から受け継いだ幼稚園の経営者でしたが、平成7年の相続時は、約7億円の負債があったと述べています。
その後、教育勅語を柱とする独特の教育方針を実践、全国的なシンパを持つようになり、負債を完済した上で、小学校建設の資金力を蓄えてきました。
しかし、園生約2百人の幼稚園の園長先生ですから、資金の蓄えといっても限度があります。
平成二四年、籠池氏は、新しい小学校の名前を、「安倍晋三記念小学校」として良いかと、安倍総理(当時は野党議員)の事務所に打診します。
さすがに名前の使用は断られ、その後、「瑞穂の国記念小学院」という名称になったということですが、籠池氏による安倍現総理に対する(表面的な?)傾倒は、ますます強くなっていきました。
平成27年初夏、幼稚園の運動会なのに、園児が、「安倍首相頑張れ、安倍首相頑張れ、平和安全法制衆院通過良かったです。」と宣誓したことは、後に大きく報道されました。
また、同年の9月4日の安倍昭恵さんの同園訪問の折、瑞穂の国記念小学院への名誉校長就任が決まりました。
さらに、この時期、小学校設立のための寄付を募る際、「安倍晋三記念小学院」との記載のある振込用紙を用い、その用紙には、「安倍晋三記念小学院の名盤に芳名を刻印する」ことを約束する文書があったことも、野党議員の質疑で明らかになりました。

(質疑の中で感じたこと~森友学園は実は優遇されていない)

私は、昨年から衆議院予算委員会の理事を務め、質疑中は席を外すことができません。このため、野党皆さんの質疑を全て聞くことができました。
その中で、私が注目した問答が3つありました。
その1つは、民進党の玉木雄一郎議員が、廃棄物処理を請け負った業者からの告発です。
それは、「8億円に相当するゴミの約5分の1は実際に産業廃棄物として処理したが、校舎の下を掘って出たゴミは、校庭の下に埋まっている。ゴミの上で子供を教育するのはいかがなものか。」という内容でした。
2つ目は、国土交通省による8億円の値引きの算定根拠の説明で、「土地面積の60%にゴミが埋まっているという事実に基づいて算定した」というものですが、森友学園側が掘ったのは校舎の下だけで、土地面積の40%位だったということでした(後にゴミを処分する必要が生じても、国は一切責任を負わない契約)。
3つ目は、維新の会の木下智彦議員の質疑で、「最近、森友学園周辺の国有地が二件豊中市に売却された。隣接する野田中央公園は、14億2千万円で豊中市が買ったが、国の交付金が14億円入っていて、市の負担は2千万円のみ。また、給食センターの土地は、7億7千万円で市が買ったが、ゴミの除却費用に14億円位かかりそうで、頭を抱えている。」というものでした。

どうも豊中市の国有地は、管理が悪いのか何なのか、ゴミだらけだったようです。
そこで私も少し調べてみました。
そうしたら、豊中市は、給食センターのゴミ処理費用は、関西空港会社(すでに国から責任が移転されている)に請求することを検討していること。さらに、野田中央公園の土地に至っては、今後建物を建てるなどゴミ処理が必要になった際の費用は、国が負担する契約となっており、破格の好条件ということが分かりました。
契約を見る限り、森友学園のみが優遇されているわけではないように思われます。
むしろ豊中市よりも悪い条件で土地を購入したのかも知れません。

 

(土地取引の真実?)
このように、森友学園も、ゴミを適正に処理すれば、8億円かそれ以上の費用がかかる可能性が高く、決して好条件とは言えないように思えます。
このような頭の整理を行うと、私は、役人の「忖度」なるものがあり得ない土地取引であったのではと考えるようになりました。
もっとも、民進党の玉木議員が指摘したように、一部しか除却費用を負担せず、ゴミを埋め戻してしまえば、あるいは国土交通省の説明のように、ゴミを掘らずにそのままにしておけば、除却費用がかからないため、計算上、籠池氏は、相当な得をすることになります。
しかし、教育機関という性質上、ゴミの上で子供を教育しているといった風評が立ったり、健康被害でも出れば、大変なとになるのではと、私は思いました。
以上の概念整理をもとに、2月27日、平成29年度予算案の衆議院本会議採決における賛成討論において、私は、この問題について、次のように発言しました。
「さらに、大阪府豊中市における国有財産の売却事案が取り上げられました。
財務省等からは、もともと池であった当該土地について、大量の廃棄物が地中にあることがわかり、この廃棄物を、通常想定できる適切な方法により除却する費用を差し引いて、買い主である学校法人に売却したとの説明がありました。
この土地は既に私有財産です。仮に廃棄物の除却が不十分、不適切であった場合に予想される各種被害への対応、今後追加的な廃棄物除却が必要となったときの費用負担等は、全て当該法人が負うこととなり、国には法律上の瑕疵は認められません。
いずれにせよ、この事案については、今後、会計検査院などによる調査が行われると承知しており、徹底調査が行われることになります。ただ、本件について財政法違反となる事由は認められず、予算案の成立をおくらせる理由とはなりがたいと思われます。」
私の認識としては、森友学園に関する土地取引は、むしろ財務省の方がえげつない商売したと評価できる位で、役人の「忖度」などあり得ない代物で、この問題は、この討論で結着したと思っていました。
そして、その後総理にお目にかかった機会に、他の国有地の件も簡単に説明し、参議院では説明型の質疑を行ってはと進言しました。
これが3月4日の参議院予算委員会での、自由民主党の西田昌司議員による「説明型質疑」につながりました。

三 問題の拡散

ところが、予算案審議が参議院予算委員会に移った途端、後から後から土地取引以外の論点が出て来るようになり、問題が拡散するようになりました。

(3通の契約書)

3月8日、報道各紙は、森友学園が、3つの公的機関に対し、同時期に、それぞれ異なる工事請負契約書を提出していたことを報じました。
校舎建設費用に関し、学校設立認可を行う大阪府に対しては、約7億5千万円の契約書でした。
それが、木材を多く使った建築への補助金を交付する国土交通省には、建設費用約24億円となっていました(森友学園はすでに約6千万円の補助金を受領済み。)。
さらに、空調設備(飛行機の騒音対策のために必要)購入のための補助金申請のため、関西空港会社に申請した書類には、建設費用約15億5千万円となっていたのです。
どれかが間違いで、どれかが正しいということになりますが、建設工事を請け負った藤原工業は、15億5千万円の契約書が正しいと明言、これに関する籠池理事長の説明は、言を左右し、納得のいくものではありませんでした。
これらの文書は、行政機関における許認可や補助金交付決定の用に供されるもので、何らかの改竄が行われていれば、公用文書等毀棄罪が成立する犯罪行為を構成します。
さらに、偽りその他不正の手段により許認可を得たり、補助金を交付されれば、籠池氏が罪に問われることとなります。

(認可申請の取り下げ)

この報道を受け、籠池氏は、3月10日、あれほど「心血を注いでいた」はずの、「瑞穂の国記念小学院」の大阪府に対する認可申請を取り下げたこと発表します。
何でこんなにあっさりとあきらめてしまうのか、いささか不可解でしたが、当時は参議院予算委員会の審議を傍観している身、余り深く考えませんでした。もっとも、喚問者に指名されてからの調査で、謎が解けてきた部分もありました(その謎解きは後に述べます。)。
この発表に迅速に対応したのが財務省でした。
財務省は、同日、籠池氏に対し、
・ 現在建設中の校舎は全て解体処分せよ。
・ 国有地は更地にして返還せよ。
・ 違約金1340万円を支払え。
と通知します。
これにより、森友学園は、建物や土地を担保とした借り入れを行うことが不可能となり、近い将来破産状態になるのは確実になりました(現在は民事再生法を申請中)。
このように、籠池氏は、小学校設立の夢も破れ、財産も失い、完全な窮地に追い込まれました。
この通知は、ある意味で、籠池氏に対する最後通牒でした。
その後、籠池氏がとった行動は、あれだけ信奉していたはずの安倍総理に非難の矛先を向け、できれば安倍総理夫妻と「抱きつき心中」を図ることでした。

(鴻池参議院議員の会見)

時間的には先後しますが、3月9日、自民党の鴻池祥肇参議院議員(元防災相、兵庫県選出)が会見を開き、籠池夫妻から、小学校用地を安く借りられるよう依頼を受けた折、金銭を持参されたため突き返し、出入禁止にした旨を発表しました。
小学校用地について、10年間の定期借地契約が結ばれたのは平成26年9月でした。当時から籠池氏は、「借地料が高い」という不満があり、いろいろな政治家に働きかけを行っていたようです。
ただ、国有財産売却に関する口利きを行うことは、交通違反のもみ消し同様、政治家にとっては極めて危険な行為で、体よくお引き取り願うのが通例です。だからこそ鴻池議員は、言下に籠池氏の依頼断ったわけです。
もっともその後も、籠池氏と鴻池事務所との接触はあったようで、事実、平成28年3月14日、籠池氏が鴻池事務所に送ったFAXの内容は、後の証人喚問でも大きな鍵となりました。

(フリージャーナリスト菅野完氏との接触)

3月15日、籠池氏は、東京での記者会見の予定をキャンセルし、やはり東京で、フリージャーナリスト菅野完氏との会談に臨みます。
何が話し合われたのか、知るよしもありません。
件の菅野氏は、元極左とされていますが、右翼系団体の日本会議を批判する「日本会議の研究」(扶桑社)を出版するも名誉毀損で訴えられ、出版が差し止められた経験を持つ、筋金入りのフリージャーナリストです。どちらかというと左翼系方と言っても良いでしょう。
会談後、菅野氏は、「政権が吹っ飛ぶくらいの事案がある。有名政治家からの森友学園への寄付がある。」と発表します。
右翼的な教育方針で一定の評価を得てきた籠池氏が、思想も信条も違う菅野氏と手を握った瞬間でした。
なぜ? については、後に述べることとします。

(参議院予算委員会視察)

翌日の3月16日、参議院予算委員会が、森友学園の小学校建設予定地への視察を行います。
その視察の場において、籠池氏から、「安倍晋三首相から、昭恵夫人を通じ、当学園に対し百万円の寄付がありました。」との発言がありました(これについて、官邸サイドは、即座に否定しています。)。
この日の夕刻、籠池氏の自宅で、民進、共産、社民、自由の四党の議員と、籠池夫妻らとの密談が行われました。
当時、大阪府は、森友学園に対する態度を硬化し、3月下旬に監査に入り、場合によっては、森友学園への告訴を検討する動きを示していました。
野党四党議員との密談終了後、会見した籠池氏は、これまで国会招致に消極的だった姿勢を転換、「国会からの要請があればいつでも応じます」と表明しました。
それまで自民党は、籠池氏の国会招致には反対の立場でしたが、本人の意思ということであれば、ある程度の対応をせざるを得なくなってきます。

四  証人喚問へ

(証人喚問の決定)

同日、自民党の竹下亘国会対策委員長は、籠池氏について、参考人招致でなく、証人喚問を行うことを表明します。
これは、籠池氏の説明内容が、二転三転していたため、参考人招致でなく、偽証罪の担保のある証人喚問の方が適当と考えられたからです。
翌3月17日、衆議院予算委員会の与党理事懇談会の後、理事会と委員会が開催され、翌週の3月23日、籠池氏に対する証人喚問を行うことが決定されました。
この問題が、衆議院よりも参議院において長時間取り上げられてきた経緯(実際、参議院予算委員会における野党議員の質疑は、森友学園問題一色であったと言っても過言ではありませんでした。)を踏まえ、午前中の2時間は参議院の予算委員会、午後の2時間は衆議院の予算委員会において喚問を行うこととされました。

(喚問者に指名される)

先に述べたように、私は、2月27日、衆議院本会議で、平成29年度予算案に対する賛成討論を行い、森友学園問題にも言及しました。
この討論の原稿作成のため、多少の頭の整理は行いましたが、予算審議が参議院予算委員会に移ってからは、森友学園問題は報道程度で知る位でした。
さらに、冒頭述べたように、この問題は、「本件土地取引では役人の忖度があったとは思えず、国会で国の税金を使って長時間審議するほどの問題ではない」という考えでしたので、参議院での審議経過も、特にフォローしていませんでした。
さて、今回の証人喚問は、従来とはその性格を異にします。
証人喚問は、ロッキード事件、オレンジ共済、KSD事件、耐震偽装事件など社会的に問題となった事件の渦中にある人を証人として喚問するのですが、今回のように、政権に対しファイティングポーズをとり、かつ、野党の皆さんとも密談した上で、国会に登場するという証人は、今までありませんでした。
加えて、籠池氏は、何か新たな「爆弾」を持っているらしいという報道もありました。
しかも、失敗は許されません。
私が喚問者に指名されたのは、3月17日の与党理事懇談会の場でした。
聞くところによると、官邸、国会対策委員会と政務調査会のトップレベルで相談をして、「葉梨さんがいい」と決めたということです。
ある意味で名誉なことではありますが、勿論相当なプレッシャーはあります。
証人喚問には通常の国会質疑のように、「質問通告」はありません。その場での応用動作と反射神経が必要になります。
また、午後の喚問ですので、午前中の参議院予算委員会での喚問内容を精査し、組み立てを考え、その2時間50後に開催される衆議院予算委員会での喚問に生かさなければなりません。
でも、準備は必要です。喚問を行う以上、喚問者が、森友学園問題について、「事件としての筋読み」を行い、「なぜ」と思われる点について、いくつかの仮説を立てることが重要になります。
このため、今まで余りフォローしていなかった参議院予算委員会での質疑の状況、学校設立認可申請・審査の経緯、報道内容、本件土地も含めた周辺国有地の取得から売買の経緯などを徹底的に調べることとなりました。
このような作業の結果、「事件の全体像」が、私なりにおぼろげながら見えてきました。
次号は、この「事件の筋読み」や「証人喚問を通じて得た印象」などについて、より詳しく述べることとします。
(前編終わり)

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