いわゆる「軽減税率」の意義~スウェーデンにおける調査で感じたこと

2014-10-25

ルント゜ホルム財務副大臣と

私は、平成26年8月18日から21日までの間、財務大臣政務官としてスウェーデンに出張し、消費税(付加価値税)において、いわゆる「軽減税率」が導入された経緯、ねらい、効果などについて調査してきた。
スウェーデンは、北欧を代表する福祉国家として知られており、1991年には、消費税の本則税率を、食料品などへの「軽減税率」を適用することなく25%まで引き上げた。しかしその後、食料品や一部サービスなどについて、「軽減税率」を採用することとなった。
これは、世界的にも非常に稀有な例であり、これが、スウェーデンを調査対象に選んだ理由だ。
食料品その他の生活必需品などに消費税の本則税率よりも低い税率を適用する「軽減税率」の制度は、わが国では、主に低所得者対策として議論されている。
その背景には、「消費税の逆進性」(消費税はお金持ちにとって有利)という考え方がある。
すなわち、消費税は、物品を購入すれば、お金持ちにも、低所得の方にも同じ税率が適用される。
この場合、いわゆるぜいたく品は、お金持ちの方が購入することが多いため余り問題ないが、生活必需品については、お金持ちも、低所得の方もほぼ同じ量を購入するものと考えられるため、支払う税額が一緒になってしまうため、低所得の方にとって、相対的に不利益になるという考え方だ。
だから、生活必需品について、本則税率よりも低い税率を適用し、低所得の方々の負担を軽減しようというわけだ。
そして、この軽減税率の制度は、EU諸国(EU指令により、15%以上の消費税率が義務付けられている)では、ほとんどの国で採用されている。

ただ、スウェーデンでの調査を行った限りでは、軽減税率が「低所得者対策」という意味合いは、余り強くないという印象だった。

スウェーデンでは、1990年から1991年にかけて、大規模な税制改革が行われ、消費税の本則税率を23.46%から25%に引き上げた。
本則税率自体はそれほどの増税ではなかったが、問題は、それ以前は非課税とされてきたサービス全般(ホテル、輸送、観光、外食等々)にも、新たに25%の消費税が課されることとなったことだ。
そしてこの時期は、湾岸戦争による原油高騰に起因するインフレと重なってしまった。
物価上昇率は、それまでの約6%から、約10%に跳ね上がり、国民や業界は悲鳴を上げることになった。
これを受け、1992年1月、ホテル、輸送、観光、外食などのサービスと、食料品について、18%の軽減税率が適用されることとなった。
このように、スウェーデンにおける軽減税率の導入当初は、食料品への適用を別とすると、「大増税の一部撤回」という意味合いが強かったことが見て取れる。

もっとも、このとき、食料品について新たに軽減税率を適用したわけであり、これは、「低所得者対策」をねらったものであることは、後に述べるストックホルム大学のメルツ教授も指摘されていた。

さて、いろいろな経緯を経て、現在スウェーデンでは、本則の消費税率は25%、食料品、ホテル、レストラン等には12%、新聞、書籍、スポーツ観戦、映画等には6%の軽減税率が、それぞれ適用されている。

このような軽減税率の意義について、私は、ルンドホルム財務副大臣、ウェステルベリ社会副大臣、メルツ・ストックホルム大教授らと意見交換を行った。
このうち、最も体系的に説明を受けたメルツ教授の挙げた「軽減税率の意義」を中心に、簡記してみたい。

メルツ教授は、軽減税率の意義として、①低所得者対策、②雇用政策、③文化スポーツ振興政策の3つを挙げた。
第1の低所得者対策は、食料品(アルコール3.5%以下の酒類を含む。)への税率軽減が狙ったものだが、教授によれば、低所得者対策としての効果は、かなり限定的なものだという。これは、お金持ちが、高級食材を低い税率で買うことができることなどによるもので、この点については、ウェステルベリ社会副大臣も同意見だった。
第2の雇用政策は、典型的には、2012年に導入された、外食サービスへの税率軽減が狙った政策効果だという。スウェーデン国税庁によれば、外食サービスへの軽減税率適用により、新たに7,500人の雇用が創出されたという。これを受け、スウェーデン財務省は、EUの会議でも、「軽減税率には雇用対策としての効果がある」との報告を行ったという。
第3の文化・スポーツ振興政策としての軽減税率だが、スウェーデンでは、新聞、雑誌、スポーツ観戦、美術館、映画等に、食料品よりも低い6%という税率を適用している。

もっとも、このような幅広い軽減税率を適用した結果、スウェーデンでの消費税収は、全ての物品・サービスに単一税率を適用した場合の6割ということで、ルンドホルム財務副大臣は、「税収のことをよく考えたほうが良い」と述べていた。

いずれにせよ、いわゆる軽減税率の意義は、低所得者対策のためだけというわけではないし、また、その政策効果についてもしっかりと見極めながら検討していかなければならないという印象を受けた。