この政権は余りに姑息すぎないか~身を切る覚悟が疑われる公務員給与と大臣給与問題
2011-12-12
12月9日、臨時国会が閉会した。先に首相が被災者二重ローン問題も含む第4次補正予算の編成を指示しながら、一川防衛大臣の失言・資質問題が火種になりそうになった途端、さっさと国会を閉じてしまうのは、まさに被災者を置き去りにした暴挙だ。
そんな中、国家公務員の給与を引き下げる法案は積み残しとなり、結果、12月15日には、国家公務員に対し、前年比4.1%増の冬のボーナスが支給されることとなってしまった。
また、一川防衛大臣の問責決議は可決されたものの、当人は「給与の全額自主返納」で反省の意を示しつつも続投を表明、年内に環境アセスメントの評価書を沖縄県に提出する構えを崩していない。
ただ、これら2つの問題、その裏を見てみると、野田政権の姑息さが良く見えてくる。○団体交渉・スト権付与の橋頭堡作りを狙っていた民主党案
一般の国家公務員には、労働基本権のうち、憲法上の労働者の権利である団体交渉権の一部とスト権が認められていない。
その代わりの措置として、「人事院」が設置され、毎年、民間の給与との均衡を図る「人事院勧告」を政府に対して行い、これを政府が実施することで、現在の国家公務員の給与が決められているわけだが、これは、「憲法上の代償措置」と説明されており、言い換えれば、人事院勧告を全く無視すれば、違憲状態も生じかねないということになる。
今年は、9月30日、給与の0.23%減を内容とする「人事院勧告」が行われた。
さて、国鉄の「スト権スト」、「順法闘争」以来、公務員が団交権とスト権を得ることは、労働条件の改善につながることが見込まれるため、労働組合の悲願であり、労組を支持母体とする民主党政権により、公務員に労働基本権を付与するための法案が、既に国会に提出され、労組はその成立を心待ちにしていた。
ただ、現在民主党は、参院では少数与党で、法案の成立のメドはなかなか立たない現状にあった。
そこで野田政権は、10月27日、連合の後押しで、「震災復興財源捻出」の大義名分で、「人事院勧告を無視し」、「国家公務員の給与を7.8%下げる」法案を閣議決定し、野党に協力を迫った。
政府が自ら「違憲の可能性のある状態」を作り出し、公務員への労働基本権付与を行わざるを得ない状況に持ち込もうという捨て身の作戦だが、まあ、「衣の下の鎧」も良いところだ。
実際、強力な国家公務員労組が団交権・スト権を得れば、人事院などに束縛されず、将来的には、自らの力で給与改善を勝ち取ることができることとなろう。
このため、自民党が対案として、一旦人事院勧告に従い、国家公務員給与の0.23%下げを実施した上、さらに復興のための特別措置として、7コンマ数㌫国家公務員給与を引き下げ、政府案とほぼ同額の復興財源を捻出する案を提示し、今回の国家公務員給与引き下げと国家公務員への団交権・スト権付与の問題は全然別であることを明確にしようとした途端、民主党からは、「それには乗れない」とのゼロ回答、労働組合も反対し、国家公務員の給与引き下げ問題は決裂、先延ばしになってしまった。
民主党は、本当に被災者や国民のことを考えるならば、労組目線で団体交渉・スト権付与の橋頭堡作りを狙うことなどせず、素直に復興財源の捻出に徹すべきだった。
この問題に、私はこの政権の姑息さを見る。
○「大臣給与」のカラクリを利用しようとする一川防衛相
資質に問題ありとされた一川防衛相は、「大臣給与の全額自主返納」を表明したが、一川発言には首をひねりつつも、「一川さんもタダ働きでお気の毒に」と同情された国民も多いのではないか。
さて、その大臣給与だが、10月28日の閣僚申し合わせにより、震災復興のため減額されたものの、毎月141万8832円が支給されることとなっている。
でも、これにはカラクリがある。
民間出身の大臣の場合は、全額が「大臣給与」として支払われるが、国会議員の大臣の場合は、衆議院や参議院から支給される「議員歳費」を差し引いた金額が、「大臣給与」として省庁側から支給される。
議員歳費は月額130万1000円、9月までは、震災復興のため毎月50万円減額されていたが、10月からは満額支給に戻ったそうだ。
つまり、一川大臣が自主返納するとした「大臣給与」は、全額でも月額11万7832円で、彼は決してタダ働きではない。
世間の常識で言えば、一川大臣は、「大臣給与の8.3%相当分を自主返納します。」と正確に説明すべきで、「全額返納します」などと、小役人的な理屈で言えば間違ってはいないが、針小棒大な印象を与える物言いをすべきではない。
そもそも、常識を踏まえた正確な説明のできない大臣が、沖縄県民や国民との信頼関係を築けようはずもない。
このような一川大臣を擁護する野田首相の姿勢にも、この政権の姑息さを感じる。
私たちは、真に国民の立場に立った、新たな政権を作らなければならない。