「財務省いいなり増税内閣」の限界~国民の英知を結集した「復興特別債」の提案
2011-9-26
9月2日に発足した野田・民主党内閣は、今後5年間で19兆円が必要とされる(復興構想会議)、東日本大震災に関する復興財源について、「政府資産の売却などの後、将来世代の負担にならないようにする」ことを表明、いわゆる「復興増税」に舵を切った。税目は、「解散総選挙を経なければ消費税に手をつけない」と約束していた手前、消費税は検討対象から外し、所得税、法人税、相続税、タバコ税などの増税を軸に増税するということのようだ。
また、税外収入となる「政府資産の売却」については、東京メトロ株や日本たばこ(JT)株のほか、日本郵政株の売却も検討し、これで数兆円規模を見込み、増税幅の圧縮を目論むとのことだ。
でもちょっと待てよと思う。
政府の無策もあり、今や、株価の超安値に加え戦後最高の円高水準で、大不況の到来や産業空洞化も懸念される中、いかに「復興」名目とはいえ、我々は、大増税や安易な政府資産の叩き売りを許して良いのだろうか。(1)「増税メッセージ」が経済の息の根を止める可能性
野田新首相は、民主党代表選の候補者時から、「財務官僚のいいなり」(福島社民党党首)と揶揄されるほど、財政再建重視論者として知られていた。
勿論、私のかつてのコラムにも述べたように、今や政府の借金はわが国の個人金融資産総額の約1000億に近づき、これ以上借金を増やせば、外国人に国債を買ってもらわなければならず、長期金利上昇と国債利払い費の大幅増の危険性が高まることは事実だ。
ただ、何事にも時期がある。
先に述べたように、現在は、震災直後を下回る株安、欧州国債の信用不安の影響も受けた超円高水準。
これに加え、特に製造業については、原発再稼働の不透明さに起因する電力不安。
このタイミングでの、所得税・法人税の増税メッセージは、企業の国内設備投資意欲を著しく減退させ、生産拠点の海外移転を加速することは必定だ。
しかも、円高是正の必要性について諸外国の納得が得られない中で、日本政府が増税メッセージを発することは、国債の信用向上の反面、一層の円買いを促し、歴史的な円高がますます昂ずることになりかねない。
内閣府の試算では、10年間の臨時増税の場合のGDP押し下げ効果は、毎年-0.16%というが、現段階での増税メッセージは、この試算以上に、日本経済の息の根を止める危険性を孕んでいる。
(2)超株安局面の株売却は国民資産を叩き売り経済を破壊
また、野田内閣は、政府が保有する東京メトロ、JT、日本郵政などの株を売却することにより、数兆円規模の「税外収入」を確保し、政府借入金の残高を増やさないための帳尻合わせに必死だ。
報道によれば、日本郵政株の70%を売却すれば、6兆円の税外収入が確保されるという。
ただ、これらの政府保有株は、国民の貴重な財産だ。
今のような超株安局面で大量の政府保有株を売却すれば、本来売却できた価格よりも安く株式を売らざるを得ないし、ただでさえ弱含みの株式市況をさらに悪化させ、一層の株安を誘発しかねない。
しかも、さらに不安要素がある。
1つは、平成22年現在、外国人投資家が、東証1部の総株式の26.7%を保有し、しかも、フロー面では、売買高の6割以上が、外国人投資家によるものであるという事実だ。
これでは、日本国民の貴重な財産が海外に流出しかねない。
2つは、JTによるたばこ耕作農家(東北に多い)からの葉たばこ買い取りなど、政府出資があるからこその制度の行方が不透明になることだ。郵便局ネットワークもどうなってしまうのか。
このように、今のタイミングでの大量の政府保有株売却は、国民資産を叩き売り、経済を破壊する危険性を孕んでいる。
だったら、将来売却するであろう予定額の範囲内で借金をして、株高のときに株を売却し、国債の償還に当てた方がよほど利口で、表面的な帳尻合わせは、国民にとってマイナスにしかならない。
(3)国民の善意に期待した「復興特別債」の提案
私は、このコラムの冒頭、「将来世代につけを回さない」という野田新首相の発言を紹介した。
しかし、復興・復旧のために借金をすれば、「将来世代につけを回す」ことになるのだろうか。
答えは、「大半の借金は否」だ。ここらへんが、野田氏が、「財務官僚に洗脳されている」とされるゆえんだ。
つまり、復興のための予算の大半は、破壊された堤防、港湾、道路などのインフラの整備に充てられ、これらのインフラは、私たちの世代だけでなく、子や孫の、「将来世代」も利用し、その恩恵を受けることになる。
だから、借金をしてのインフラ整備は、経済学・財政学的には、「つけを回す」という代物ではなく、「世代間負担の均等化」と位置づけられる。
もっとも、政府借入金残高が、個人金融資産の総額に迫ろうという今、大幅に借金が増加し、外国人投資家の存在がなければ消化不可能な事態となれば、国債の信用不安を引き起こしかねず、これにはしっかりした手当が必要だ。
そこで2つほど提案がある。
第1は、従前から自民党が主張しているように、民主党のバラマキ4K(こども手当、朝鮮学校等高校無償化、高速道路無料化、戸別所得補償)を即座に撤回し、復校財源を捻出することだ。
でも、それでも足りない。このため、第2に、日本国民(永住者)限定の、「復興特別債」を起債、国民の善意に期待し、復興のための資金を募ることを提案したい。
そもそも外国人投資家が購入できない性格の債券であれば、国際的な信用不安の問題は生じない。
そして、日本国民の善意に期待し、政府が、「ある意味で利子分は寄付と思って下さい」と、国民に丁寧に頭を下げた上、復興のためにどのように使われたか、債権者に対して定期的にお知らせするなどの付加的なサービスをすることを約束すれば、例えば一般の国債よりも低利で、償還期間も長いなど、やや不利な条件を提示しても、十分に消化できる可能性が高いと思う。
日本経済の成長を図りつつ復興を進めるためには、しっかりした政治主導で、今まで官僚の世界では試みられなかったような、例えば私が提案する方法などについても検討し、八方手を尽くさなければならないと思う。
今の内閣はそれをやっていない。
また、今の内閣がどうしても増税をしたいのならば、消費税以外の増税なら選挙は不要などと姑息なこと言わず、どうして増税をしたいのか、どう使うのか、しっかりと国民の意見を聞き、その信を問うことも必要だろう。
消費税だろうが所得税だろうが、税金には変わりないからだ。
「財務省いいなり増税内閣」では、やはり限界があるように思う。