野田新首相がなすべきこと(2)~震災復興のため、3次補正予算後、直ちに国民の信認を得直せ
2011-9-13
6月2日の内閣不信任案否決以来、民主党は、被災地そっちのけの「菅おろし」で、3か月もの政治空白を作った後、9月2日に、ようやく、野田新内閣の発足を見た。報道各社の世論調査では、新内閣は、おおむね5割台後半から6割台の高い内閣支持率を記録しており、まずはご同慶の至りだ。
テレビなどでも、前任の管氏が、露骨に政権にしがみつき、「どうしようもない」とみられていた反動か、野田新首相については、「演説のうまさ」、「重厚に見える風貌」、「『どじょう』を自認する泥臭い実直さの演出」などが、今のところ、非常に好意的に受け取られている。
ただ、このような政治スタイルは政治スタイルとして、野田新首相が、具体的に何をしたいのか、民主党代表選挙を通じても、9月13日の所信表明演説を聴いても、今ひとつ見えてこなかった。
さて、8月29日の民主党代表選挙では、前原候補が、思い切った円高・経済対策を掲げ、馬淵候補が、増税でなく、復興債による復興予算の編成を主張、そして、本命と目された海江田候補は、「2009年民主党マニフェストの尊重」を前面に出した。
このように、これら3候補は、演説の巧拙は別として、それぞれ特徴的な政策を前面に出して代表戦を戦った。これに対し、衆議院当選11回の鹿野候補は、豊富な経験に基づく安定感をアピール、野田候補は、「どじょう」演説に象徴される「泥臭さ」、「実直さ」を印象づけ、この両候補は、どちらかというと、「政治スタイル」を前面に出した代表戦を戦った感がある。
結果は、野田候補の勝利、民主党は、野田新代表の下で、「党内融和」が図られることになった。
ただ、野田新代表が、政策面で何をしたいのか、この代表戦を通じても、実は、今ひとつよく分からなかった。
例えば、客観的には既に破綻している2009年の民主党マニフェストの扱いについては、「政権交代・マニフェストの原点に帰る。」とする一方、「(マニフェストを見直すことを内容とする)3党合意は守る。」と発言、どうもスタンスが明確でない。
震災復興のために必要となる財源についても、かつての「復興増税実施」発言を「検討」へとトーンダウン、これもはっきりしない。
歴史的な円高とこれに伴い必要となる経済対策についても、具体的な発言が聞かれなかった。
新内閣発足後の臨時国会は9月13日に招集され、所信表明演説が行われたが、「演説は確かにうまいが」というのが第一印象だ。
政治スタイルの面では、「正心誠意」を掲げ、「与野党の懸命な議論」を提唱し、低姿勢で野党に協力を求めたいとしたが、その一方で、所信表明直前の本会議で、民主党は、野党の要求する予算委員会の開会を拒否し、国会会期をたった4日とする動議を強行議決、これでは、野田新首相の「低姿勢」の本気度が疑われかねない。
また、政策面では、国民あげて復旧復興と原発問題の解決に取り組もうという思いが語られたが(その「思い」に反論するつもりはない。)、課題に取り組む具体的な方策についての言及はなかった。
もっとも、野田新首相が、具体的方策や特徴的政策を、今に至っても提示できない理由は、想像に難くない。
野田新首相は、菅内閣の財務大臣として、too little too late(規模が余りに小さく、打つ手が余りに遅い)と評された戦力逐次投入式の震災対策補正予算を編成した責任者であり、さらに、金融政策の無策により歴史的な円高を招いた当事者だった。
その野田氏が首相になったわけで、ここは、政治理念を180度転換し、もとの「どじょう」ではなく「金魚」でも目指さない限り、野田新内閣の政策のディテイルは、菅前内閣のそれと、さほど変わらない可能性が高く、なかなか新味が打ち出しずらいのだろう。
ただ、どのような内閣であれ、復旧復興がわが国にとって喫緊の課題であるという認識は、当然のことながら、私も共有している。
だからこそ、早期に国会を再開し、遅くとも10月半ば位までには、大規模な第3次補正予算を早期に成立させるべきと思うし、これには、誰が首相であれ、野党もしっかり協力すべきと思う。
そして、その上で、私は、野田新首相には、11月20日の福島県会議員選挙の投開票に合わせる位のタイミングで解散総選挙を断行し、早急に国民の信を問い直すことを強く勧めたい。
これは、自民党の党利党略のために言っているのではない。
事実、今の高支持率では、民主党政権継続の可能性も相当高く、私自身にとってもまた、非常に苦しい戦いとなることは間違いない。
でも、どちらが勝つかの問題でなく、強力な復興政策を推進するためには、解散総選挙で国民の信認を得直すことが大切と思う。
以下、具体的に3点ほど述べてみよう。
第1に、政策遂行のスピード感の回復が必要ということだ。
今の民主党政権は、先の総選挙の直接の勝因であったマニフェストの破綻が明らかになり、正統性を失っている。
「詐欺フェスト」による勝利という負い目を持った政権が、野党との折衝に臨んでも、衆参ねじれ国会の下、「懸命な議論と対話の中で一致点を見いだす」のに、相当の時間と労力を費やしかねない。
スピード感のある震災復興は、やはり、直近の民意を反映し、正統性を持った政権こそが行うことができる。
第2に、大規模な増税や借金を行うためには国民の意見を聞くことが必要ということだ。
約20兆とも言われる復興財源を、民主党の主要政策であるこども手当や朝鮮学校授業料無償化等の廃止で捻出するのか、増税により捻出するのか、借金により捻出するのか、巨額の国民負担を伴うだけに、しっかり国民の意見を聞かなければなるまい。
この手続きを経なければ、政策はいきおい中途半端なものとなり、かえって復興の妨げとなりかねない。
第3に、現在のような政治の混乱を、国民の信を問い直すこと(リセット)により、回避すべきということだ。
一部には、「震災復興の大事なときに解散総選挙の政治空白を作るべきでない」という議論があるが、本当にそうだろうか。
6月2日の不信任案否決後、時の首相が政権にしがみついた結果、既に90日もの政治空白・政治混乱を生んでしまったが、これは、政権が国民の信認を得ていなかった故の悲劇だったのではないか。
実際、ここのところの永田町政治の空洞化は目に余るものがあり、これを回避するには政治のリセットが必要だ。
解散から総選挙までの期間は、40日に過ぎないし、その間、前内閣が職務を執行すれば、政策遂行の空白は生じない。
震災被災地でも、9月11日には岩手県知事・県議選の投開票が既に行われ、宮城県議選は11月13日に、福島県議選は11月20日にそれぞれ執行され、曲がりなりにも、全国で選挙を実施する体制が整うことになる。
直近の民意を反映した政権を創ることにより、わが国に、一刻も早く、国民のための政治を取り戻さなければならない。
もとより高い内閣支持率の下での解散総選挙となれば、落選中の私にとって厳しい戦いとなるのは確実だ。
それでも私は、国民のための政治を取り戻すため、今まで地べたを這いつくばって活動してきた2年間で得たものを糧として、自民党を国民目線の保守政党としてよみがえらせ、日本の立て直しに全身全霊を尽くすことを、正々堂々と訴えて行きたい。