構造改革への覚悟もなく思いつきでTPPに突き進む民主党政権~頼むから変な対外約束だけはしないでほしい
2011-2-20
菅・民主党政権については、年初来「3月危機」説がくすぶっていたが、国会が開会すると、案の定、民主党のメルトダウンが始まった。国民の生活そっちのけで、総理大臣としての地位や議員の身分にしがみつくため、露骨な権力闘争に明け暮れる今の民主党の姿は、あわれとしか言いようがない。
親小沢・反小沢の争いや、選挙区基盤のない単純比例選出議員による民主党会派離脱騒ぎは、自己保身が見え見えで、私には本質的なこととは思えないが、このような混乱に隠れて、「政権浮揚」の起死回生策として、国民生活が犠牲になることを、正直心配している。
具体的には、予算の問題と、対外公約の問題だ。
今回は、対外公約、分けても、TPP(環太平洋戦略的パートナーシップ協定)について簡単に触れたい。
TPP問題については、昨年、前原外相が、「GDPの1.5%を占めるに過ぎない農業を守るために他の98.5%が犠牲になって良いのか」と発言、本年に入っても、仙谷官房長官(当時)が、「座して死を待つよりも開国に打って出るべき」と指摘、菅政権の「平成の開国」というキャッチフレーズの流れを作った。政府は、国内向けには、関税ゼロ化、非関税障壁撤廃を目指すTPP交渉への参加の是非は、本年6月までに決定するとしているが、1月下旬、菅総理は、ダボス会議での講演の中で、「平成の開国」を目指す強い決意とTPPなどの意義を強調、我が国のTPPへの参加は、国際公約となりつつあるのが現状だ。
でも、彼らは、どこまでの覚悟があって、このような発言を繰り返しているのだろうか、私は疑問に思う。
私は、日本が国際社会の中で尊敬される地位を築くためには、あらゆる産業分野における国内での構造改革を、相当な覚悟をもってしっかり行いながら、国際社会に打って出ることが必要と考えている。
今の民主党の首脳部は、農業だけ何とかすれば何とかなると、余りにも軽い考えを持っているのではないか。
(認識不足を露呈した前原氏)
その意味でも、「GDPの1.5%を占めるに過ぎない農業を守るために他の98.5%が犠牲になって良いのか」という前原外相の発言には、極めてがっかりさせられた。
彼は、我が国産業の中では、農業だけが生産性が低く、他の産業の国際競争力は極めて高いと、本当に考えているのだろうか。
2010年に日本生産性本部が発表した産業別労働生産性の国際比較によれば、我が国産業の労働生産性は、確かに製造業こそ、G
7(米日独英仏伊加)の中で米国に次ぐ2位と比較的高いが、その一方、農業だけでなく、サービス産業部門が大きく立ち遅れているため、全産業では、G7の中で最下位となっている。
個別の産業の生産性を米国対比で見ると、農業が約20%となっているほか、卸小売44%、飲食宿泊37%、加えて、運輸・医療・ビジネスサービスなどの分野が立ち遅れている。
かつて「日米構造協議」なるものが行われていた時代、米国からの市場開放圧力もあり、大店法が緩和、米国資本も含む大規模店舗全盛時代を迎え、地域の商店街がシャッター通りとなっていったことは記憶に新しい。
前原氏は、TPPで被害を被るのは農業だけと考えているようだが、非関税障壁の撤廃と市場開放により、我が国GDPの約6割、労働人口ベースでは約7割を占める第3次産業にかなりの影響が出ることを、全く理解していないようだ。
(「座して死を待つ」政策を展開してきた仙谷氏)
それでも私は、広範な産業分野において、我が国が主体的に、地に足のついた構造改革を進めつつ、国際社会に打って出ることが、日本の生き残り戦略と考えている。
だからこそ、主体的な構造改革は絶対に必要だ。
そのような意味で、国鉄分割民営化改革を成し遂げた中曽根政権や、「聖域なき構造改革」に舵をきった小泉政権の方向性は、やはり評価されるべきだと思う。
もっとも、小泉政権下での改革は、「弱者切り捨て」と批判されるなど、確かに急ぎすぎた面はあったかも知れない。
しかし、農業分野においては若手後継者の育成を目指し、郵政分野においては民間との競争条件の同一化を目指し、各産業分野において規制緩和・規制改革を目指すなどの構造改革路線は、方法論においてもっと丁寧にすべきという思いはあるが、方向として決して間違っていなかったと思う。
ただ、自民党の中にも、このような改革路線に反発する方は多かったし、民主党の中には、もっと多かった。
そした民主党は、改革反対・バラマキ回帰を掲げて総選挙に勝利した。
民主党への政権交代後、国家戦略相、後に官房長官の仙谷氏らを中心に、
○兼業・小農固定化を促す農業者戸別所得補償
○郵政改革をストップする法案を国会に提出
○社会保障も含めた規制改革のための検討を停止
など、構造改革を打ち消す政策を矢継ぎ早に進められたわけだ。
このような政策が、今、行き詰りつつある。
しかも、自衛隊のインド洋派遣も止めた今、汗をかかない日本に対して、米国からは、かつての日米構造協議時代と同様に、再び市場開放を求める圧力が強まりつつある。
「座して死を待つ」政策を意図的に展開してきたのは、ほかならぬ仙谷氏ご自身ではなかったのか。
(菅氏には変な約束だけはしないでほしい)
菅首相は今、国内的には明らかなレイムダックだ。
日本をどこに持っていこうとしているのか分からない。
でも、「人気」はなくても「任期」はある。政権浮揚のためには思いつきで、藁にもすがろうとする彼が、「日本国総理大臣」でいることは厳然たる事実だ。
国際社会の中で、このことを利用しない国があるとは思えない。
私が心配しているのは菅氏が変な約束をしてしまうこと。
民主党政権の崩壊はいずれ起こる。
ただ、その前に、政権維持と保身のために、前原氏流の無知と仙谷氏流の責任転嫁の上に乗っかって、菅氏が他国に迎合するような約束をし、言質を与えてしまうことだけは絶対に避けてほしい。
できれば、菅氏や前原氏は、外国要人との会談は避けて欲しい。外国訪問にもいかないようにして欲しい。
国内政策の失政は、今年になるのか来年になるのか分からないが、私たちもしっかりとかつての自民党の問題点を反省し、新しい観点から再び政権についた後、抜本的な立て直しを行えば、これは何とかなる。
しかし、日本国としての対外約束は、たとえその資質のない総理や外相がしたことでも、政権が代わっても、約束は約束として残ってしまう。
民主党は、変な対外約束をしないで欲しい。
国益が損なわれる危険を回避するための、1国民としての切なる願いだ。