尖閣対応に見る民主党「政治主導」の危うさ~初動の失敗への検証が必要
2010-10-12
○セオリー無視の「中国人船長1人だけを逮捕」の初動対応尖閣列島で中国漁船が海上保安庁巡視船に衝突した事件は、その処理を巡り、民主党政権による危機管理・外交対応の拙劣さを明らかにすることとなりました。
ただ、「わが国が中国の圧力に屈した」ということ以前に、9月7日の事件発生時に、総理官邸が、「政治主導」により、中国人船長1名のみを「首謀者」として公務執行妨害罪で逮捕し、他の乗組員10数名に対するまともな取り調べを行わずに、漁船とともに中国に返してしまったという政治判断が、そもそも、現場のセオリーを全く無視した初動対応だったことは、余り指摘されていません。○「停船命令を無視して衝突」の事実解明を怠った政府
例えば、交通違反の自動車がパトカーに追跡され、停車を命じられたにもかかわらず、パトカーに衝突したとしましょう。
この場合、運転手の意図的な衝突なのか、助手席に乗っていた者の指示によるものなのか、単にハンドルを切り違えただけなのか、外形的には分かりません。
ですから、まずは関係者全ての取り調べを行い、悪質な事案の場合は、関係者複数を現行犯逮捕し、事実関係を解明、しかる後、首謀者を送検して拘留するか否かを判断することが大切です。
しかし、尖閣事件の場合、逮捕するか否かの判断は官邸に上がり、操舵士や機関士には全くおとがめがないまま、事件発生後半日を経過して、船長のみを逮捕し、他の乗組員については、「中国との関係に配慮」し、即時帰国させることとなってしまいました。
このような対応では、総理官邸は、最初から事実解明に及び腰で、船長を逮捕することで、中途半端に体面を保ったと言われても仕方ありません。
○「初動対応」で現場を軽視する民主党の危うさ
案の定、船長は否認。そのときには、捜査当局は操舵士や機関士から事情を聴くこともできず、立証は困難を極めてしまいます。それを見透かした中国の圧力や、多分官邸の意向もあったのでしょうが、船長は釈放という無様な結果となりました。
最初の段階で、しっかり事実の解明をしていれば、極めて悪質な事案ですから、外交的圧力に屈することもなかったのです。
そもそも「危機管理」、特に「初動措置」の問題は、政治の思惑が介入する問題ではありません。現場には、これまでの経験に裏打ちされた、セオリーやマニュアルが存在します。
これを無視して、初動対応にまで「政治主導」(それも経験がある方なら良いのですが)を持ち込もうとする民主党政権の対応には、国民の1人として、危うさを感じざるを得ません。