バラマキ政策のままの「増税検討」は危険(1)~もっと深堀の議論が必要
2010-6-21
6月8日に菅新内閣が発足したが、国会の方は、予算委員会の論戦も、党首討論もないままに6月16日に閉幕。民主党は、政権のトップを取り替え、ご祝儀相場などで支持率が高いうちに参院選を有利に戦おうという思惑だが、これは、選挙戦術としてはまことに正しい。
ただ、そのことによって、しっかりした政策論争が脇に追いやられ、参院選が、イメージ選挙の色彩を帯びることになるとしたら、極めて危険なことだ。
私たちは、この9ヶ月民主党政権がやってきたことをしっかりと検証し、冷静な議論と判断をしていかなければなるまい。
その中で、先日菅新首相が所信表明演説の中で述べた「第3の道」、「強い財政のための増税の検討」の政策が、その後の記者会見で、同首相が、「消費税率としては、自民党が主張する10%を参考にする」とした発言と相まって、マスコミでは、「消費税増税については、自民党も民主党も同じ。」と報道されていることに、私はかなりひっかかっている。
私は、自民党の側も、「消費税10%」とブチ上げたのはナイーブ過ぎたと考えているが、自民党と民主党、実は両者は似て非なるものだ。○目指すべき「財政出動」の方向性が違う
6月11日の菅首相の所信表明演説、菅氏は、「第3の道」により、「経済・財政・社会保障を建て直す」ことを表明した。
菅氏の言う、「第3の道」とは、英国のトニー・ブレア元首相の唱えた「第3の道」(「自由主義」と「社会民主主義」の折衷)とは異なるようだ。
氏によると、
「第1の道」とは、経済成長のため、「公共投資中心」に財政出動を行うという方策。
「第2の道」とは、財政出動に頼らず、市場原理と民間の生産性向上重視で経済成長を図るといいうもの(いわゆる構造改革路線)。
ということらしい。
そして、「第3の道」とは、「新たな需要や雇用創出のきっかけとして」、財政出動を行い、経済成長を実現するというもの。
このように、財政出動・積極財政という意味では、「公共事業中心の積極財政」が、「公共事業以外の使い道での積極財政」 に変わっただけで、「第1の道」と異なることはない。
そして、「公共事業以外の使い道」として、昨年の総選挙で民主党が公約した「子ども手当」、「高校無償化」、「高速道路無料化」、「農業者戸別所得補償」などのいわゆる「バラマキ政策」が想定されることとなる。
ただ、「子ども手当」など、直接給付型の財政出動は、その大半が消費でなく貯蓄に回ってしまうため、全てが一旦は消費に回る従来型の公共投資と比べても、経済成長への寄与度ははるかに低い。
また、一生懸命働いた人も、そうでない人も、同じだけ受け取る形での直接給付は、国民の勤労意欲を削ぐ危険性を孕む、極めて社会主義的な政策だ。
私は、経済成長は、基本的には民間企業の生産性を上げ、さらに、民間が新たな産業・雇用を創出することにより達成すべきと思う。
そのために政府がなすべきことは、企業の競争条件が諸外国と比べ不利にならないような規制改革を進めることだ。
そして、政府の財政出動は、いわゆるセフティネットを手厚くすることや、民間ではできない基礎研究などに重点を指向すべきだと思う。
さらに、公共事業への支出なども、災害対策など、真に必要な支出に限定していくことが必要だろう。
自民党の考え方も、ほぼこのようなところだろう。
いずれにせよ、少なくとも私の考え方と、菅氏の「第3の道」とは、「財政出動」の方向性が違う。
○「消費税」の議論をするなら即刻「バラマキ政策」を止めよ
ただ私は、将来の社会保障の安定的財源を確保するためには、消費税増税の議論は、避けて通れないと考えている。
年金・医療・介護への政府支出は現在年20兆円、今の福祉の水準のままなら、高齢化の進展により、これが、毎年1兆円ずつ増加していく。
多くの国民も、最近では、「ある程度やむを得ない」という考え方に傾いているようだが、消費税の議論の前に、「徹底的に税金のムダ遣いを排除すべき」なのは当然のことと思う。
ただ、この「税金のムダ」、自民党政権下、毎年数千億円の削減に知恵を絞ってきたが、民主党政権になって、7兆円ほどの「税金のムダ遣い」を削減できるはずだった目論見が、「事業仕分け」を大々的に行っても、出てきたのは自民党政権下とほとんど変わらない約6千億円。
しかも、この「仕分け」により、かの「はやぶさ」の後継機の予算要求も、「不要不急」ということでカットされてしまったし、畜産危機のための準備金を召し上げてしまったことが、口蹄疫対策の遅れの一因になったと指摘される始末だ。
もとより私は、「税金のムダ排除」の努力は、徹底して続けるべきと思うが、仙谷官房長官が、いみじくも、「アト2兆円がいいところ」と言っているように、これでは社会保障費を賄えない。
だから、民主党の理屈は、強い財政を創るため「消費税増税を検討」ということになるのだが、その前にやるべきことがある。
「金食い虫」の「第3の道」、「バラマキ政策」を即刻止めることだ。
次回は、「第3の道」を堅持したままでの増税検討の危険性と、それではどのように国民に対する問いかけを行っていくべきか、私なりの考え方を書く。