汚染米事件現地調査~「ヤル気のない行政」・「霞ヶ関55年体制」打破の必要性を痛感

2008-9-20

実重・九州農政局長(左)に厳しく要請

総裁戦の最中の9月18日、私は、与党調査団(6名)の一員として、「三笠フーズ」(大阪市)による汚染米事件の舞台となった同社九州工場(福岡県)での現地調査・事情聴取を行ってきた。
前日の9月17日に、農業基本政策委員会の主査に内定していることもあり、急きょ指名されての調査となったが、当日は、朝6時11分取手発の常磐線で上京、8時5分羽田発で福岡へ、現地で1時間強の事情聴取、午後3時前には羽田着、午後4時に党本部で、結果を保利政調会長に報告というハードスケジュールだった。
この問題、明らかに、業者は途方もなく悪質だ。
カビや水漏れで食用不適とされ工業用に回されたコメや、輸入時に基準値以上の農薬が検出され工業用の用途限定で通関したコメ、これらが、事故米とも、汚染米ともいわれる。
三笠フーズは、汚染米を㌔5~10円で落札、納品書を偽造し、工業用糊の原料として販売したことを装っていたが、実は、酒造用米として㌔70~90円、菓子などの加工用業務米として㌔200~300円で転売していた。
言語道断のモラル以前の問題だが、実は、監督する側の行政は、徹底的にナメられていた。(「ヤル気の無さ」を露呈した「抜き打ち調査」)
既に報道されているように、福岡農政事務所は、三笠フーズ九州工場に対し、この5年間で96回に及ぶ立ち入り調査を実施していた。
ただ、調査といっても、立ち入り調査の実施は事前に連絡され、係員2人が、キレイに偽造された帳簿を形式的に確認するもので、「まあ、半日くらいかけてお茶でも飲んでいただけなのかな」と思われるような内容だ。

でも、その中で、1回だけ、「抜き打ち調査」が行われた。
平成19年1月、福岡農政事務所に対し、匿名で、「三笠フーズが、事故米(汚染米)を酒造(焼酎)メーカーに納品している」という情報提供があったという。
さすがにこのときは、4~5名の係官が三笠フーズに乗り込んだが、「抜き打ち」にしては、相当おざなりだったという印象だ。
すなわち、
・三笠フーズ九州工場が工業用米を販売したことにしていた会社は、九州工場長の前任者(であり実の父親)が代表者を務めるペーパー会社でしかないのに、その父親から、「確かに工業用で買った」という説明を聞き、裏もとらずに鵜呑みにしていた。
・ペーパー会社の経理について、しっかり調査した形跡がない。
・酒造用米への横流し疑惑については、ペーパー会社(工場長の父親)等から「サンプルとして渡しただけ」という説明を聞き、不問に付していた。
・汚染米を購入し、工業用糊を製造した者が誰か、調査した形跡がない(汚染米は全て横流しされていたため、工業用糊を製造した者など存在しなかった)。
等々、捜査機関ほどの専門知識がないことを差し引いても、「調査」とはほど遠い、「お前らヤル気があるのか」という内容だ。
これでは、業者からナメられるのも当然、平成19年1月の「抜き打ち」調査以降も、三笠フーズは、汚染米の横流しを続けることになる。
私は、現地で調査しながら、これまでの農政事務所の対応のふがいなさに、情けなさだけでなく、怒りすらこみ上げてきた。

(国家公務員が「国民の目線」を忘れている)
私が今解明と対策づくりに取り組んでいる「社会保険庁ヤミ専従問題」や、昨今明らかになった社会保険庁の厚生年金記録の改ざん問題もそうだが、今回の農林水産省の対応も含めて、最近、国家公務員が、「国民の目線」を忘れているのではと思わざるを得ない事件が後を絶たない。
そして、9月18日、現地でふと思い至ったのは、その大きな原因の1つに、「霞ヶ関55年体制」があったのではということだ。
政治の世界では、自民党が第1党、社会党が第2党という「1955年体制」は、すっかり崩壊してしまった。
でも、霞ヶ関の役人の世界では、最近まで、高級官僚と出先機関との、持ちつ持たれつの関係があったように思う。

すなわち、日本の高級官僚は、実は、諸外国に比べると給料は安いし、退職年金も安い。ただ、その代わり、「天下り」の活用で、「良い思いが出来る」というシステムが、確かにあった。
安倍内閣での公務員法改正で大分風向きは変わってきたが、今でも、自民党が、これらの高級官僚の利益を守っているという印象を持たれていることも事実だ。

次に、出先機関だが、社会保険事務所、農政事務所といった出先機関では、圧倒的に、国家公務員労働組合が強い。彼らは、諸外国と比べても比較的高い給料を勝ち取り、労働条件の改善、誤解を恐れずに言えば、「一生懸命働かなくてもしっかり給料を受け取れる勤務環境」の整備に力を尽してきた。
このような出先機関の公務員の利益を守り、労働条件の改善を要求してきたのが、官公労に支持された社会党、そして、現在の民主党だった。

乱暴に言うと、高級官僚は「天下り」のことを考え、出先機関は「楽をして給料をもらうこと」を考える。そこには「国民の目線」はない。しかもそれぞれが、特定政党と結びついてきた。
これが、「霞ヶ関55年体制」だ。

こんな体制は、国民のため、政治主導で、絶対に打破しなければならない。
でもそれが、今まで高級官僚から助力を得ていた自民党で出来るのか?
また、出先機関に大きな影響力を持ち、労働条件改善を最大目標とする官公労を支持母体とする民主党で出来るのか?

私は、社会保険庁のヤミ専従問題を追及するに当たり、当時の伊吹幹事長、谷垣政調会長にもお話した上、国会で、「今まで自民党には、労組だけをたたいて、官僚は守るという印象があった。でも、これからの自民党は、官僚も、労組も、悪いことをしたら徹底的に排除する。そうでなければ国民の信頼は得られない。」と主張させていただいた。
考えてみれば、今までの小泉改革で、古い自民党は、とっくに「ぶっこわれて」しまっている。
「霞ヶ関の55年体制」を壊すことは、現実の選挙で官公労のお世話になっている民主党では、絶対に出来ない。
なぜなら、政治家にとって、選挙での支援ほど、頭の上がらないものはないからだ。
となれば、「新しい自民党」こそが、国民目線で、リーダーシップをとっていかなければならない。

(「国民目線」の公務員改革)
9月18日の三笠フーズ現地調査は、汚染米問題だけでなく、公務員のあり方ということについて、私に、大きなインスピレーションを与えてくれた。
そして、「国民目線」の公務員改革のポイントは、3つほどある。
・ケジメ(信賞必罰)
社保庁の不良公務員を徹底して排除するなど(私は、社会保険庁ヤミ専従問題プロジェクト座長として、そのための法案づくりを進めている。)、公務の世界でも、ケジメが必要。(民主党は、公務員の身分保障の維持を主張)
・ヤル気(能力評価)
福岡農政事務所のように、ヤル気のない「調査」は「仕事」に値しない。仕事をしても、しなくても、給料は一緒という「労働条件の悪平等」を排し、ヤル気のある公務員が報われる勤務評価・給与体系が必要(官公労は、勤務評定改革・給与改革に反対)
・国民目線(共感)
国民と痛みを共有し、国民目線でことに当たることが必要。そのため私は、総務部会長代理として、人事院勧告にかかわらず、来年1年間緊急に給与カットを実施し、国民の共感を得ることを主張(民主党は、人事院勧告の完全実施を要求)。

私は、これらの改革を進めることで、「霞ヶ関55年体制」を「ぶちこわす」先頭に立っていくつもりだ。