拉致解決のためのさらなるメッセージ~北朝鮮人権法改正案を取りまとめ
2007-4-25
4月上旬、「拉致被害者を救う会」の西岡力副会長が、中川昭一自民党政調会長を訪れた。内容は、米国による北朝鮮のテロ国家指定解除作業が開始されることに、家族会・救う会が、深刻な懸念を持っており、わが国としても何かできることはないのかという相談だった。
具体的には、4月下旬に、安倍総理も訪米され、その折、拉致問題解決への協力を求めることは勿論としても、わが国独自に、米国のようなテロ国家指定の法律ができないかという内容だったが、これを受け、即日、中川政調会長から、私に対し、難しいかも知れないが、何とか工夫してくれという指示が下りた。
これは、昨年、私が中心となって、北朝鮮人権法(拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律)をとりまとめた経緯があったためで、今回の検討も、北朝鮮人権法を改正することをベースに進めていくことになった。昨年6月、北朝鮮人権法を成立させた頃、2月の日朝交渉における北朝鮮の不誠実な態度などにより、拉致問題も進展がないばかりか、北朝鮮は核開発計画を放棄せず、6カ国協議自体も暗礁に乗り上げていた。
しかも、同年4月には、米財務省が、バンコ・デルタ・アジア(マカオ)の北朝鮮関連口座が資金洗浄に用いられていたとして、処分を発効させるなど、当時、国際社会が、北朝鮮に対する支援を検討するような環境にはなかった。
このような観点から、北朝鮮人権法の立法時は、北朝鮮に対する支援めいた施策に関する配慮などの規定は置かないこととしたわけだ。
そして、その後、7月の北朝鮮によるミサイル実験、10月の北朝鮮による核実験と、国際社会は、わが国の主張も踏まえ、北朝鮮に対する圧力を強めていった。
ところが、本年に入り、北朝鮮から投げられた「核開発計画の放棄」という「くせ玉」をどう評価するかという問題が浮上する。
論理的には、北朝鮮が、「確実に、かつ、検証可能な形」で、「各開発計画を放棄」するのであれば、「北朝鮮を支援すべき」という意見もあり得る。
私は、北朝鮮の「くせ玉」は、2006年の飢饉の影響で、北朝鮮が何らかの援助を欲したことが大きいと見ているが、これに乗せられて、国際社会に、「核と拉致は切り離すべき」という論が浮上するようでは、まさに北朝鮮の思うつぼだ。
先の6カ国協議では、わが国は、拉致問題の進展がなければ、北朝鮮への支援には加わらない態度を明確にしたが、これは、正しいことだと思う。
そして、家族会や救う会の思いは、わが国政府自体が、「核・拉致分離論」に押し切られてしまったらたまったものではないし、むしろ、わが国政府として、国際社会が、「核・拉致分離論に」に与しないように、積極的な施策を展開して欲しいということだ。
私は、単に、家族会・救う会の要請を受けてということだけではなく、北朝鮮人権法の立法当時の経緯からして、今、国会の意思として、「拉致の進展なければ支援なし」という姿勢を、法律で明記することは、国民や国際社会に対する重要なメッセージにもなるものと考えた。
ただ、条文化の過程では、いくつかの工夫が必要だ。
第1に、その国柄からして、人権問題に強い関心を有する米国などを睨むと、「拉致の進展がないかぎり支援なし」という、日本の特殊事情とも見える表現を法律に盛り込むことは、必ずしも利口ではない。
そこで、仮に、「政府は、その施策を行うに当たっては、北朝鮮当局による人権侵害状況を固定化し、又は助長するおそれがないよう十分に配慮する」という、より普遍的な表現とした。
これにより、万々が一、米国が北朝鮮の人権侵害国家指定を解除したとしても、わが国として、米国に対しても、このような普遍的原理を受け入れるべきでだという主張をすることができる。
第2に、法文の文言に、「支援凍結」という表現を、敢えて盛り込まないこととした。これは、「外国政府及び国際機関に適切な働きかけを行う」こととしたこととの関連だ。
私は、拉致家族会・救う会も、北朝鮮の人権状況の改善に真につながるような、我々として検証可能な透明性のある支援には、反対はしていないと認識している。ただ、現在指摘されている、「人道支援」に名を借りて、物資が指導者層や軍部に横流しされるようなあり方では、何のための支援かということになる。
実務的にも、「支援凍結」とストレートに書くことにより、「日本はエキセントリック(変わっている)」と言われるよりも、「北朝鮮の人権侵害状況を固定化し、又は助長するおそれ」を排除すべきと言った方が、「外国政府や国際機関に対する働きかけ」の際、例えば、北朝鮮に対する融資のあり方等について、わが国として、よりきめ細かで説得力のある議論ができるように思う。
第3に、特に拉致問題を、日朝2国間の問題でなく、より国際的問題とするため、「北朝鮮当局によって拉致されたことが疑われる関係国への情報提供に努める」ことについても定めることとした。
先のAPPFに関するコラムでも述べたが、拉致問題は、決して日朝2国間だけの問題としてはならない。その意味からも、このような規定がその一助になれば幸いだと思う。
取手の自宅から国会への電車通勤(多くは常磐線・千代田線の鈍行に乗る)も役に立つもので、実は、これらの構想は、条文の書き方も含め、通勤電車のベンチシートに座ってまとめたものだ。
4月中旬には、方向性を西岡副会長にも示し、さらに、公明党にも党内調整を依頼。さらに、民主党にも打診、超党派の拉致議連からも、いくつかの意見を頂き、4月25日、対北朝鮮経済制裁シミュレーションチームに、条文案等を報告させていただいた。
今後、幅広い合意を得つつ、可能であれば5月中には法律とし、国会としても、拉致問題を絶対に風化させないという強いメッセージを示すとともに、国際社会に対して、果たして、「人権侵害状況を固定化し、又は助長するおそれがある支援」をしていいのかどうか、しっかりと訴えていきたいと思う。