IPU史上でも稀なドラマ(2)~列国議会同盟、北朝鮮核実験非難決議を採択
2006-10-23
前回コラムでも述べたように、世界146カ国の立法府が参加するIPU総会は、10月16日夕刻、わが国議員団提案の「北朝鮮の核実験問題」を緊急追加議題とすることを決定した。その後の焦点は、決議案の起草の仕方ということになるが、翌17日午前中までに、各地域グループごとに、決議案の起草委員に加わる国々を推薦し、構成することになった。
起草委員に選出された国は、提案国であるわが国を含め、ベニン(西アフリカ)、チリ、中国、エジプト、イラン、韓国、オランダ、メキシコ、ニュージーランド(NZ)、パキスタン、ポルトガル、ロシアの13カ国。
ミサイル問題の安保理決議などへの対応を見ると、このうち、中・韓・ロは、もともと対北制裁に躊躇を見せていた国々だ。
また、エジプト・イラン・パキスタンは、米国等の利益に配慮しすぎという理由で、現在の核不拡散条約体制に批判的な国々だ。
構成をから見る限り、起草委員会の運営は難航が予想された。起草委員会には、各国1名の国会議員が、代表として出席する。
そしてまず、議長の選出。
北朝鮮の核実験に対する懸念を共有しつつも、ある程度中立的な国が望ましく、私から、NZのカーター氏を推薦し、承認される。
そして、カーター氏の進行により、我が方が提出した決議案の素案をもとに、議事が進められることになった。
討議の内容について、大きく2つのポイントを述べよう。
1つは、核不拡散条約(NPT)への評価。
決議では、当然のことながら、本来条約加盟国である北朝鮮に対し、査察の受け入れなど、核不拡散条約上の義務を果たすよう、強く求める必要がある。
しかし、条約未加盟で、かつ、「核保有国」であるパキスタン、インド(文書により意見提出)から、IPUの総意として、決議の原案に「核不拡散条約の重要性」についての言及があるのは、「大きなお世話」という意見が出された。
ただ、決議が、「核不拡散条約の重要性」に触れなければ、北朝鮮に、「我々は条約脱退声明を発しているのだから、印・パキスタンと同じ立場だ。」など屁理屈を言わせかねない。
そこで、私としても、原案にあった、「条約未加盟国に加盟を呼びかける」という表現を、より一般的な表現に止めることなどは容認する代わり、「核不拡散条約の重要性」への言及については、過去のIPU決議に同様の言及があることを盾に、印・パキスタンの主張をはねつけ、コンセンサスを得た。
次に、北朝鮮に対する具体的要求の書き方の問題。
さすがに、決議文で、制裁措置も含む10月14日の安保理決議を支持することには、どの国も異論を唱えなかった。
しかし、中国は、日本原案にある、北朝鮮を名指しし、「再核実験、核開発プログラム、核兵器配備の企てを破棄すること」の要求は、決議としてトーンがきつく、北朝鮮を刺激しすぎと主張した。
ただ、それでは、何のための決議だか分からなくなってしまう。
なぜなら、安保理の決議番号を引用するだけでは、決議本体の文案から、北朝鮮に何かを求めるという能動的ニュアンスが薄まってしまうからだ。
そこで、私から、中国が、日本案の代替案として提案していた平和的解決・対話の重視等の文言を決議に加えることを容認する代わり、日本原案にあった北朝鮮関連の表現を残すことを提案、コンセンサスを得た。
議会人の決議である以上、平和的解決・対話重視の姿勢を強調することは、至極当然のことで、私は結果として、世界の多くの議会人から共感を得やすい決議案に仕上がったとのではと思っている。
カーター議長の公平な進行の下、論理的意見であればコンセンサスに近づくという建設的雰囲気の中で、起草委員会は、17日夜までには起草作業を終えることができ、翌18日午前中に文案を確認、決議案を、午後5時からの本会議に上程した。
しかし、総会では、案の定、北朝鮮の代表が発言、
○日本提案は、レバノン問題という重要問題から目を背けるために提出された。
○決議案は米国の横暴そのもの。米国の横暴ゆえ、北は核を持たざるを得ない。
○米国のいないところで、日本はいつも米国の手先として振る舞う。
などとまくし立て、拍手などによる採択を拒否。
これを受け、イタリアのカッシーニ議長は、即座に、職権により、異例の記名投票を指示。
結果は、賛成897、反対33(北朝鮮、イエメン、バーレーン)、棄権240の圧倒的多数での採択となったわけだ。
中国、インド、パキスタンも、起草委員会のコンセンサスに参加していたため、賛成に回らざるを得なかった。
また、決議採択後、棄権に回った主要国(エジプト、イランら)も、核不拡散条約体制が大国に有利すぎるため棄権したが、決議の精神には賛成である旨言い訳するなど、大変面白かった。
いずれにせよ、この決議は、世界の議会の総意と言って良い。
世界の議会人が、このような決議を行った意味は、決して小さくはない。
私も、決議の提案・起草・採択というドラマに関与できたことを光栄に思うが、北朝鮮の核問題の解決は、これからが正念場だ。
決議採択後、「おめでとう」とかけよる各国の同僚議員に、「ありがとう」と礼をのべながら、私は、「決議(the resolution)は採択されたが、解決(solution)を得るための仕事はこれから始まる。」と、気を引き締めながら応じていた。