「ならずもの国家」にどう対処するか~北朝鮮による拉致問題特別委員会

2006-7-17

拉致特で安倍官房長官に質疑

7月10日の衆議院・拉致問題に関する特別委員会。
北朝鮮を巡る情勢は、今、急激に動いている。
6月28日には、金英男氏とその家族が北朝鮮・金剛山で再会、拉致問題への取り組みに対する日韓政府の温度差が表面化する中、7月5日早朝には、北朝鮮が、突如7発のミサイルを発射する。
これを受け、わが国も、独自に一定の制裁措置を発動、さらに、国連安保理の場でも、ギリギリの交渉の末、7月15日、対北朝鮮決議案が採択された。
10日の拉致問題特別委員会は、このような状況の急転を受け、国会閉会中ではあるが、安倍官房長官などに対し、今後の政府の対応を質すためにセットされたものだ。
私自身は、正規の委員ではないが、先に成立した「北朝鮮人権侵害問題対処法」作成の責任者として、質問者に指名された。

この日は、中韓を北朝鮮側に走らせない意味からも、国際社会に対し、北朝鮮が、「平和に対する脅威」であり、かつ、「人権に対する脅威」であることを粘り強く訴えていく必要性を力説した。先のコラムでも書いたが、人権問題やミサイル問題について、韓国政府の北朝鮮に対する姿勢は、わが国とは大きく異なる。
例えば、7月9日、韓国大統領府が、ミサイル問題に対するわが国の対応を、「騒ぎすぎ」と論評するなど、分断国家であるという特殊事情や、根強い反日感情を勘案しても、ミサイル問題は、韓国の安全保障にも直接関わる問題であるわけで、韓国政府の対応は国際的な常識とは、相当かけ離れている。
ただ、実際問題として、国際社会が、有効な北朝鮮包囲網を作っていくためには、中国や韓国が、(制裁に積極的ではないまでも)少なくとも北朝鮮に対する支援に回らないようにしていくことが大切だ。

ところが、北朝鮮当局も、ミサイル問題に拉致問題を絡め、私から言わせれば、見え見えの「日韓分断」工作を行っている。

時系列的に見てみよう。
・6月28日「横田めぐみさんの夫」金英男氏とご家族との再会を北朝鮮国内でセット。
・6月29日金英男氏記者会見「私は北朝鮮に救助された。遺骨に言い掛かりをつける日本政府こそ人権蹂躙。」
・6月30日韓国政府、横田めぐみさんの件で、日本と政策協議を行わない旨表明
・7月2日金英男氏姉記者会見「北朝鮮入国に関する弟の説明を理解する。」
・7月4日北朝鮮、拉致問題取材のため邦人記者(6社)を平壌に招請
・7月4日韓国の海流調査船、翌日には竹島海域に侵入と報道される(翌日午後領海侵犯)。
・7月5日北朝鮮、テポドンミサイルを発射
・7月5日日本政府、万景峰号入港禁止などの措置を発表
・7月5日北朝鮮、邦人記者に招待所や火葬場を公開
・7月6日金英男氏、邦人記者に対し会見「結婚生活は幸福」
・7月6日北朝鮮高官邦人記者に対し会見「日朝平壌宣言違反は、拉致問題で対話を拒否してきた日本の方」
・7月9日韓国大統領府論評「ミサイル問題で日本は騒ぎすぎ」

このように、北朝鮮当局は、この数日、主として韓国国民・政府向けに、わが国マスコミも利用しながら、「拉致問題は解決済み」、「日本は騒ぎすぎ」というメッセージを発出してきた。
そして、その反応を見、中国や韓国が自国に対し強い態度には出ないことを見越した上、しかも、韓国の調査船がわが国領海を侵犯するその日を狙って、金正日は、ミサイルを発射したと思えてならない。

私は、こういった北朝鮮による露骨なプロパガンダに対抗するためには、「国際社会のコンセンサス」づくりが最も大切と考えている。
残念ながら、日本は今、中国との間に尖閣問題、韓国との間に竹島問題を抱えている。
ここでもし、わが国が、北朝鮮による拉致問題やミサイル問題についてのあなたの国の対応は非常識ですよと申し入れたとしよう。
現状では、感情的な反発を招くか、領土問題での譲歩を強いられる可能性も高い。

だから、ミサイル問題では、わが国は、2国間の交渉よりも、主として安全保障理事会の場で、最も強硬な立場をとり、理事国の説得に当たった(もっとも私は、2国間の交渉ができる素地は、しっかり作っておくべきと考えているが。)。
このことが、結果として、もともと議長声明に止めるべきと主張していた中国やロシアの大幅譲歩を勝ち取り、決議採択後、韓国政府も、安保理決議への支持を表明することにつながった。

このような文脈で、7月10日の拉致問題特別委員会では、北朝鮮という国が、「平和への脅威」のみならず「人権への脅威」であることを、国際社会のコンセンサスとすることが必要ということを訴えさせて頂いたわけだ。
また、私自身も、8月上旬にモンゴルで開催される「北朝鮮人権問題国際議員連盟」の会議に、自民党代表として派遣されることとなっているが、政府任せにすることなく、国際社会のコンセンサスづくりに、国会議員として、積極的に努力していきたい。